芭蕉さんが詠んだ句
(野ざらし紀行〜おくのほそ道)

   

野ざらし紀行  (43句)

貞享元年(1684年)8月〜貞享2年4月末
芭蕉41歳

野ざらしを心に風のしむ身哉

()とせ(かえっ)て江戸を(さす)古郷

霧しぐれ富士をみぬ日ぞ(おも)(しろき)

猿を(きく)(ひと)捨子に秋の風いかに

道のべの(むく)槿()は馬にくはれけり

馬に寝て残夢(ざんむ)月遠し茶のけぶり

三十(みそ)()月なし()(とせ)の杉を(だく)あらし

(いも)洗ふ(おんな)西行(さいぎょう)ならバ歌よまむ

(らん)()やてふの(つばさ)たき物す

蔦植て竹四五本のあらし哉

手にとらば消ん涙ぞあつき秋の霜

わた弓や琵琶になぐさむ竹のおく

僧朝顔幾死(いくしに)かへる(のり)の松

(きぬた)(うち)て我にきかせよや坊が妻

露とくとく試みに浮世すゝがばや

()(びょう)年経て(しのぶ)は何をしのぶ(ぐさ)

(よし)(とも)の心に似たり秋の風

秋風や藪も(はたけ)不破(ふわ)の関

死にもせぬ(たび)()(はて)よ秋の暮

冬牡丹千鳥よ雪のほととぎす

曙(明けぼの)や白魚白きこと一寸

しのぶさへ(かれ)て餅買ふやどり哉

狂句木枯(こがらし)の身ハ(ちく)(さい)に似たる哉

草枕犬も時雨(しぐる)るかよるのこゑ

市人(いちびと)(この)笠うらふ雪の傘

馬をさへながむる雪の(あした)

海暮れて鴨の声ほのかに白し

年暮ぬ笠きて草鞋はきながら

()(むこ)歯朶(しだ)に餅おふうしの年

春なれや名もなき山の薄霞

水とりや氷の僧の(くつ)の音

梅白し昨日(きの)ふや鶴を(ぬすま)れし

樫の木の花にかまはぬ姿かな

我がきぬに伏見の桃の雫せよ

山路来て何やらゆかしすみれ草

辛崎(からざき)の松は花より(おぼろ)にて

命二ツの中に生たる桜哉

いざともに()(むぎ)(くら)ハん草枕

梅恋ひて卯花拝む涙哉

(しら)げしにはねもぐ蝶の形見哉

牡丹(ぼたん)(しべ)ふかく(わけ)(いづ)る蜂の名残哉

(ゆく)駒の麦に慰むやどり哉

夏衣いまだ(しらみ)をとりつくさず

 


鹿島紀行  (7句)

貞享4年(1687年)8月
芭蕉44歳

月はやし梢ハ雨を持ながら

寺に寝てまこと(がお)なる月見哉

この松の実生(みば)えせし代や神の秋

刈りかけし田面(たづら)の鶴や里の秋

萩原や一夜ハやどせ山の犬

(しづ)の子や稲(すり)かけて月を見る

芋の葉や月(まつ)里の(やけ)(ばたけ)

 


笈の小文  (54句)      

貞享4年(1687年)10月25日〜貞享5年(1688年)4月23日
芭蕉44歳〜45歳

旅人と我名呼ばれん初しぐれ

時は冬吉野をこめん旅の土産(つと)

星崎の闇を見よとや(なく)千鳥

京まではまだ半空(なかぞら)や雪の雲

寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき

冬の日や馬上に氷る影法師

鷹一つ見付てうれし()()()(ざき)

(とぎ)直す鏡も清し雪の花

箱根越す人も(ある)らし今朝の雪

ためつけて雪見にまかる(かみ)()

いざ(ゆか)む雪見にころぶ所まで

香を探る梅に蔵見る軒端(のきば)

旅寝して見しやうき世の(すす)払ひ

歩行(かち)ならば杖(つき)坂を落馬哉

旧里(ふるさと)や臍の緒に(なく)年の暮

二日にもぬかりハせじな花の春

(たち)てまだ九日の野山哉

枯芝ややゝ陽炎の一二寸

丈六に陽炎高し石の上

さまざまの事思ひ出す桜哉

何の木の花とは知らず(におい)

裸にはまだ()(さら)()の嵐哉

(この)山のかなしさ(つげ)野老(のころ)(ほり)

物の名を(まず)問ふ(あし)の若葉哉

梅の木に(なお)やどり木や梅の花

芋植て(かど)(むぐら)の若葉哉

御子(おこ)良子(らご)の一(もと)ゆかし梅の花

神垣(かみがき)や思ひもかけず涅槃(ねはん)(ぞう)

吉野にて桜見せうぞ()()(がさ)

草臥(くたびれ)て宿()(ころ)や藤の花

春の夜や(こも)()ゆかし堂の(すみ)

猶見たし花に明行(あけゆく)神の顔

雲雀(ひばり)より空にやすらふ峠哉

龍門の花や上戸(じょうご)土産(つと)にせん

酒飲ミに語らんかゝる滝の花

ほろほろと山吹散るか滝の音

()奇特(きどく)や日々に五里六里

日は花に暮てさびしや翌檜(あすならう)

扇にて酒()む影や散る桜

春雨の木下(こした)につたふ清水哉

父母(ちちはは)のしきりに恋ひし雉の声

(ゆく)(はる)に和歌の浦にて(おい)(つき)たり

一ツ脱いで(うしろ)(おい)ぬ衣がへ

灌仏(かんぶつ)の日に(うま)れあふ鹿()の子哉

若葉して御目(おんめ)の雫(ぬぐ)はゞや

鹿の角(まず)一節(ひとふし)の別れかな

杜若(かきつばた)語るも旅のひとつ哉

月はあれど留守のやう也須磨の夏

月見ても物たらハずや須磨の夏

海士(あま)の顔(まず)見らるゝや芥子(けし)の花

須磨の海士の矢先に(なく)郭公(ほととぎす)

ほとゝぎす(きえ)(ゆく)(かた)や島一ツ

須磨寺や吹かぬ笛聞く木下(こした)(やみ)

蛸壺(たこつぼ)やはかなき夢を夏の月

 


更科紀行  (11句)      

貞享5年(1688年)8月11日〜8月下旬
芭蕉45歳

あの中に蒔絵(まきえ)(かき)たし宿の月

(かけはし)や命をからむ蔦かづら

桟や先思ひ出づ駒(馬)迎へ

(おもかげ)(うば)ひとり泣く月の友

十六夜もまだ更科の(こおり)

ひよろひよろと(なお)露けしや女郎花(おみなえし)

身にしミて大根からし秋の風

木曾の(とち)浮世の人のミやげ哉

送られつ(わかれ)(はて)は木曾の秋

月影や四門四宗も只一(ただひとつ)

吹飛ばす石ハ浅間の野分(のわき)

 


おくのほそ道  (50句)    

元禄2年(1689年)3月27日〜9月6日
芭蕉46歳

草の戸も(すみ)替る代ぞ雛の家

(ゆく)春や鳥(なき)魚の目ハ泪

あらたふと青葉若葉の日の光

暫時(しばらく)ハ滝に籠るや()(はじめ)

夏山に足駄(あしだ)を拝む門出哉

木啄(きつつき)(いお)ハ破らず(なつ)()(だち)

野を横に馬(ひき)(むけ)よほとゝぎす

田一枚(うえ)(たち)去る柳かな

風流の(はじめ)や奥の田植歌

世の人の見付ぬ花や軒の栗

早苗とる手もとや昔しのぶ(ずり)

笈も太刀も五月(さつき)にかざれ(かみ)(のぼり)

笠島ハいづこ五月のぬかり道

桜より松ハ二木(ふたき)三月(みつき)()

あやめ(ぐさ)足に(むすば)草鞋(わらじ)の緒

夏草や(つわもの)どもが夢の跡

五月雨(さみだれ)(ふり)残してや光堂

(のみ)(しらみ)馬の尿(ばり)する枕もと

涼しさを(わが)宿にしてねまる也

這出(はいいで)よ飼ひ屋が下の(ひき)の声

(まゆ)()きを(おもかげ)にして紅粉(べに)の花

(しずか)さや岩にしみ(いる)蝉の声

五月雨を集めて早し最上川

有難(ありがた)や雪をかをらす南谷

涼しさやほの三日月の羽黒山

雲の峰幾つ(くずれ)て月の山

語られぬ湯殿にぬらす(たもと)かな

あつミ山や(ふく)(うら)かけて夕涼み

暑き日を海に入れたり最上川

象潟や雨に西施(せいし)合歓(ねぶ)の花

(しお)(ごし)や鶴(はぎ)ぬれて海涼し

文月(ふみづき)や六日も常の夜にハ似ず

荒海や佐渡に横たふ(あまの)(がわ)

一家(ひとつや)に遊女も寝たり(はぎ)と月

早稲(わせ)の香や分入(わけいる)右は(あり)()(うみ)

塚も動け(わが)泣声(なくこえ)ハ秋の風

秋涼し()(ごと)にむけや(うり)茄子(なすび)

あかあかと日ハ難面(つれなく)も秋の風

しをらしき名や小松(ふく)(はぎ)すゝき

むざんやな(かぶと)の下のきりぎりす

石山の石より白し秋の風

山中(やまなか)や菊ハたをらぬ湯の(におい)

今日よりや書付(かきつけ)消さん笠の露

(はき)(いで)ばや寺に(ちる)

(かき)て扇(ひき)さく余波(なごり)

月清し遊行(ゆぎょう)の持てる砂の上

名月や北国日和(びより)(さだめ)なき

寂しさや須磨に勝ちたる浜の秋

(なみ)の間や小貝にまじる(はぎ)(ちり)

(はまぐり)のふたみに別れ(ゆく)秋ぞ


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