上野天神まつりの鬼行列に関して


 1、上野天神まつり
   澄み切った秋空に法螺貝が響き渡ると ゆらりとその大きな御幣が立ち上がる。
  伊賀路最大の秋祭りのお渡りのはじまりだ。


 350年余の歴史を有する天神まつりは10月23日、24日、25日におこなわれる。
 24日は宵宮である。日が暮れるとだんじりの提灯に灯がともり幻想的な姿を映し出す。
 25日が本祭。神輿(天満宮、九社宮)は東旅所から本宮へと御渡りをし 大御幣、鬼行列、だんじりの供奉行列が続いて巡行する。大御幣が城下町の甍を縫うように進むと、法螺貝の響きと重なって ひょろつき鬼が絶妙な所作で沿道の子供たちに迫っていく。小さな子供はたまらない なんと言っても怖いのだ。 だんじりの賑やかなお囃子が聞こえてくる。九基のだんじりが絢爛さを競い勢ぞろいする姿はまさに圧巻!。歴史絵巻が繰り広げられる上野祭は国の重要無形民族文化財に指定されている。

 天神祭礼、なかでも鬼行列については資料として現存するものは皆無で 藤堂藩関係の資料より推察するしかない。
が上野日南町の松本院(山号 朝来山 京都醍醐寺三宝院末)の明治3年の由緒書きに

「御太守公 高虎様 御病気御遊ばされ候に付き 地福院へご祈祷仰せ付けられ 大峯役行者へ大願奉掛け 全御影にて早く御平癒遊ばされ候 右に付き 御能之面を御寄進遊ばされ 役行者の形相 相用いられ 毎年九月二十五日 当社氏神天満宮祭礼の節相務め申し候 昔より今至るまで 辻氏の門前にて 三之町渡り人数相添え申すように 家給わり申し候こと」

「地福院義は三之町辻氏の屋敷にて 知行弐百五拾石頂戴致し候由 ご祈祷所修験掛け 相務め候こと」

とある。恐らくは 万治三年(1660年)に再興した祭礼に「疫病退散」と称して松本院所蔵の能面を用いた鬼行列が加わったものと想像できる。3代藩主高久の元禄四年ころに悪疫が流行り 神社、仏寺での祈祷が盛んに行われたらしく そのころからはじまったのかもしれない。
 現在、鬼行列は 役行者の大峯山入峰を模し 練行する形式を取っているというのが通説になっている。

 2、供奉面 能面としての意味

  真蛇(しんじゃ)……
蛇類の能面は 蛇、真蛇、般若、大般若、生成、狐蛇、泥蛇がある。そのうち真蛇は蛇の極みの女面。女の嫉妬の表現としての般若を通り越し とうとう蛇体にまでしてしまったのがこの面である。しかめた眉間の険しさ、外側に向かって張り出した鋭い角、ぐっと前に突き出した下あご、大きく裂けた口から見える上下の歯 その間にのぞく赤い舌、額や 角までにも血管が浮かび出し 見るものに凄まじい恐怖をあたえる。



鬼の名は 悪鬼
つるぎを持ち経文を下げている
               


悪鬼が使用する能面
真蛇

  猩々(しょうじょう)……
中国の想像上の動物で 海中(揚子江)に棲み猿に似ている。身体は朱紅色の長い毛におおわれ 顔は人に 声は子供の泣き声に近く 人語を解し酒を好む。酔って舞い戯れる。その血で染めた布を猩々緋といい 病気を防ぎ長寿をもたらすとされている。

  怪士(あやかし)……
妖気を表わした男面。船が難破しようとする時に現れると言う 海上の妖怪。海幽霊。能では武将の怨霊を表し 「船弁慶」「鵺(ぬえ)」「錦木」などに用いられる。


  童子(どうじ)……
中国の周時代 王に仕えた少年慈童の事。王から賜った枕に記された妙文を菊の葉にうつして それにたまる露を飲んで仙人となり長寿したという。
したがって普通の少年ではなく 永遠の若さを象徴する神仙の化現である。
涼しい目をした美少年のおもてである。

  小面(こおもて)……
小面は女面の原点。若い女性を表わす。広い額 長いあご ふくよかな頬をそなえた肉付きのよい顔で目鼻立ちが中央によった あどけない幼児の顔の作りをしている。切れ長の目、頭髪をまん中から分け頬あたりまで流している。華やかさの中に年若い女性の初々しさを感じさせるとともに 平安時代の上流女性を想像させる。

  泥眼(でいがん)……
名称の由来は金泥を施した眼からきている。金泥は眼のしろめの部分に施す。歯にも金泥を施す。女面 本来は女性が成仏した姿をあらわす。女性の怨霊ではあるが 高貴な女性の耐え難い燃える思いを感じさせる。

  小飛出(ことびで)……
飛出の名称の由来は、眼球が飛び出しているから と言われている。眼球が飛び出し眉がつり上がっているのが特長である。大飛出は瞳孔をやや内側に寄せうつむき加減にくり抜いてあるので 菅公が雷神となって天上より下界を見下ろしている忿怒相を表わしている。対して小飛出は大飛出より眼も口も鼻も小さく耳もなく小ぶりである。しかしその分 地上を軽快に駆け巡り水中で活躍する神々を表わしていると言ってよい。

  阿古父尉(あこぶじょう)……
阿瘤尉とも書く。小尉(老翁の面)の中でも頬の突起(頬骨)がこぶの様になっているのでこう呼ばれている。

  悪尉(あくのじょう)……
悪は「猛々しく強い」ことを表わし、尉は老人であるから 悪尉とゆう名称は 表情の強い老人 を意味する。口は大きく開かれ 上下の歯がいきり立っている。その上眉間からこめかみにかけて 皮膚がむくれあがり激怒の瞬間を表わしている。

  大べしみ……
天狗魔性の面。「べしみ」とは歯を見せないで唇を強く合わせてウッとかんだ時の口を表わす。口を強く結ぶため鼻の穴が開き 両眼を大きく見開いている。

  追儺面(ついなめん)
追儺(ついな)とは宮中の行事で、大晦日の夜 鬼に変装した者を追い回して疫病を除く儀式をいう。民間でいうと節分の夜の豆まきにあたる。
 


  行道面(ぎょうどうめん)……
行道面とは寺院の法事の時、僧侶が列を組んで読経しつつ仏堂や仏像の周囲を歩くときの いわゆる練り供養に用いる宗教面で 種類としては観音菩薩や八部衆、四天王などがある。
      
 3、大御幣

  高さ5.3m(061024実測、約3間)、これを人が持つと1m高くなるから6.3m(約3間半)となる。


   以下 工事中