メタパラダイムの4概念
人 間
1.人間は、独自的でとりかえのきかない個体、つまり過去に生きていた人々、あるいはこれから生きるであろう人々と似てはいるが、同じではありえないこの世界における一度だけの存在者。
2.人間は、成長、発展、変化など連続したプロセスに存在する独自的で代わりのない個人。
3.看護師も患者もひとりの人間である。
4.患者という用語は、ひとつのステレオタイプである。実際には、患者は存在しない。
 必要な、他人からのケア・サービス・援助をもとめている個人。
5.看護師という用語は、独自な人間としてではなく、ひとつのカテゴリーとかステレオタイ プと知覚される。看護師はすべての人々の人間条件を、共通にわかちもっている一人の人間。一群の専門家した知識と、病気の予防・健康の回復・病気における意味の発見・最高の健康維持などのために、その知識を活用する能力をもっている。
      *ステレオタイプ:固定的型にはめたものを意味する
健 康
1.主観的および客観的健康基準によって定義した。
2.主観的健康状態は、肉体―感情―精神面の状態の自己評価に応じて個々に一致する
もの
3.客観的健康は、肉体の検査、研究室でのテスト、精神科ディレクターまたは心理カウンセ ラーの評価などにより認知できる病気、機能障害、欠陥などが無いこと。

環 境
1.トラベルビーは学説においては環境を明白には定義していない。
2.彼女は、希望、病気、苦難、苦痛、など、すべての人間が遭遇する人間の状態、人生
経験をきちんと定義して、これらの状態が環境とみなされるとしている。
看 護
1.看護師−患者 対人関係のプロセス。
2.専門的な看護実践者が、個人・家族あるいは地域社会を援助するため。
@病気や苦痛の体験を予防
A病気や苦痛に立ち向かえるように援助
B病気や苦痛の体験の中に意味を見出せるように援助
3.看護の目的は、人間対人間の関係を確立することをとおして達成される。
4.看護は、援助を受ける人のなかに、変化を起こさせうるという目的のために着手されているサービス。

人間対人間の関係
1.定義
「人間対人間の関係は、看護師とその看護を受ける人とのあいだの、一つの体験あるいは一連の体験である。この体験の主要な特色は、個人(あるいは家族)の看護上のニードがみたされる、ということである。この関係は、専門実務看護師が目的的につくり、維持するものである。」10)
・人間対人間の関係の特徴は、看護師と病気の人とが看護師対患者というよりもむしろ、
独自な人間としてお互いに知覚しあい、関係を結ぶことである。看護師、患者では人間関係を確立できない。各個人が他人を一人の人間として知覚するときに関係は可能である。
・看護場面での人間対人間の関係は手段であり、その手段を通じて看護の目的は達成される。病気と痛みの体験を予防したり、それらに立ち向かうよう援助したり、これらの体験のなかに意味を見出そうと援助するという目的が達成されるのである。
・人間対人間の関係は、看護師とそのほかの人たちと相互作用を営みながら、日々築きあげられるものである。
・人間対人間の関係は、看護師と看護を受ける人とが、先行する4つの相互関連的な位相を通り過ぎてから確立される。
@ 初期の出会いの位相
A 同一性の出現の位相
B 共感の位相
C 同感の位相                        
・これらの位相はすべて、最高度に発展して、ラポートと、人間対人間の関係の確立にいたる。
・「人間対人間の関係」 「関係性」 「ラポート」は、同義語とみなされている。


2.人間対人間の関係の確立にいたる諸相

@ 初期の出会いの位相
a 看護師は、はじめての人に出会うと、その人を観察し、推論を発展させ、価値判断をするが、ふつうその相手の人も看護師について同じようにしている。観察は最初の最も重要な段階である。
b この位相で形成された初期判断は、「第一印象」、「速断」あるいは他人についての「感じ」であり、それらは、対人関係における手がかりの知覚や言語的・非言語的コミュニケーションをきっかけとしている。
c 初期の出会いでは、人はその看護師を「看護師」とみ、看護師はその人を「一患者」とみる。そこでは独自性の認識は、ほとんどまったく欠けている。各人が他者を特定の独自な人間とみるときにだけ、打破される。個人が患者として知覚されるか、あるいはひとりの独自な人間として知覚されるかということが、非常に重要である。

A 同一性の出現
a 他人とのつながりを確立する能力のほかに、他人の独自性を認める能力が顕著である。看護師、病人の両者は、結びつきを確立しはじめ、相手をカテゴリーではなく、いっそう独自な人間としてみはじめる。
b この位相では、共感の位相で知覚されるほどの明確な独自性ではない。
○ 他人の独自性を知覚する能力の欠如
・「同一化過剰」:看護師が他人から自分自身を分離できないこと。
自分自身を見てしまい、病人の独自性が知覚できない。
○ 自分自身を「物差し」として用いる−人間には他人を判断し評価するため
の差しとして、自分自身を用いたがる強い傾向がある。
○ 羨望を抱くこと
・ 相互作用は、看護師と病人の両者に羨望を引き起こすかも知れない。
・ 看師は病人の独自性を知覚したり評価することができなくなることがある。
・ 他に対する興味の欠如、すなわち、自己を超越できず、情緒的に他人に出資できない。
○ 看護師の職務
・ 自分が他の人をどう知覚しているのかを覚知するようになること、と同時に、われわれが「患者」と呼ぶこの人間の独自性を認識できる範囲を、覚知するようになることである。
・ 共感の展開を助けるために、自分自身と相手とのあいだの同異を評価すること。
・ 看護師はある程度自分自身を超越しなければならない。

B 共感の位相
「共感とは、他の個人の一時的な心理状態にはいりこんだり、分有したりして理解をする能力である。」
a 相互理解というタイプの体験である。
b それは意識的なプロセスである。つまり人は、いつ共感が起こっているかを
知っている。
c 看護場面での共感は、連続的なプロセスではない。
d 共感の必要条件
・ 他人を共感する個人的能力は、人と人の間の類似性の程度とか、種類に
よってきまる。
・ 共感は類似性の上にたってのみ作用しうるのだから、看護師にすべての病人との共感を期待するのは、実情にそぐわない。
・ 看護師の豊かな個人的背景、経験が左右する。
・ 他人を理解したいという願望。
e 共感の諸特徴
・ 他人の行動を予測する能力という特徴がある。
・ 他人との共感は、他人を好きにならなくても、あるいは肯定的な感情を
持っていなくても可能である。
f 価値判断と共感
・ 人が他人の共感的知識を獲得しているあいだか、獲得している直後に価値判断がくだされる。
g 無判断の態度
・ 人に対し無判断的態度であることはできないに等しい。
・ 看護師は無判断的であろうと努力してはならない。自分がその病人について形成した判断に、気づくよう努力すべきである。
h 受容
・ 寛大さと類似している側面がある。
・ 他の人びとを許すこと、それが他人を受容することなのである。
・ 受容ができれば、次の同感の位相に移動することができる。

C 同感の位相
・ 同感の能力は、共感のプロセスから生ずる。共感を越えた段階であり、同感には苦悩をやわらげたいという基礎的な衝動や願望がある。この願望は、共感には欠けており、同感の特に顕著な特徴である。
a 定義
・ 2人あるいはそれ以上の人たちのあいだにおきている体験である。
・ 人は他人の感情に参加し、同情を体験する。
・ 同感をしながら、同感の対象から距離をおくことは不可能。
・ 人は同感するとき、関与させられるわけだが、しかしその関与によって力を失うということではない。
b 看護場面での同感
・ 同感がうちに秘めているのは、他人の不幸や苦悩についての本当の関心であり、苦しむ人を援助したいという願いに結びついている。
・ 同感は、素質、態度、他の人に伝えられるようなタイプの思考、感情であり、深い個人的な関心や興味がこの思考や感情の特色である。
・ 同感というのは、温かみ、親切、短期型の同情、配慮的な特質であり、それらは感情の水準で体験され、他の人に伝えられたものである。
c 同感と共感との比較
・ 共感は、個人が他人の心理的状態を理解できるというプロセスであり、この理解のおかげで、他人の行動を予測できる。しかし、中立的なプロセスである。他人が体験しつつあることをただ理解するだけであり、その苦悩を救うために何かをしたいというような願望は伴わない。同感の前段階であり、同感を実現させるプロセスの1段階である。
・ 同感は、苦悩を救済するため他人に手を貸したい、という願望を内に秘めている。同感には、温かみとか、行為への衝動があるが、共感にはそれがない。同感的なひとは他人の苦悩を救おうとして行動をおこすので、同感は共感を越えて発展する。
d 同感の結果
・ 同感の体験の結果として、病人は看護師を信頼しはじめるが、完全な信頼はまだ欠けている。
・ 同感は、それぞれの人が他人にたいする結びつきを強める一時的な体験。
・ 看護師に対する病人の完全な安心は、その人が、看護師に頼ることができ、看護師が彼を忘れないだろうとわかるときに、体験される。

D ラポートの位相
  看護師と病人が、ラポートおよび人間対人間の関係の確立に先行する4つの互い
に結ばれた位相を通じて歩むときに、体験されるようなこと、それがラポートで
ある。
a 定義
   「看護師とケアを受ける人とが、同時に経験するプロセス、できごと、体験、あるいは一連の体験である。それは、一群の相互に関係のある思考や感情から成り立っており、これらの思考・感情・態度は、ある人から他の人に伝達される。」
b ラポートの必要条件
   治療的な自己利用につながる体験的アプローチを所有し、用いるような看護師によって実現される。単に一人の看護師が所有するところの何かであるにとどまらず、彼女が存在するということなのである。
c ラポートの特徴
・看護師と病人の両者は、「患者」にたいする看護師としてではなく、人間に対する人間として知覚しあい、関係を結ぶのである。
   ・看護プロセスのあらゆる位相を通じて、専門実務看護師が意識して努力するのは、病人を知るという目標を達成し、個々人の看護上のニードを確認し、みたすという方法で相互作用をし、コミュニケーションをすることである。
・ラポートの結果は、看護師と病人の両者が、この体験のおかげで人間として成長することである。
・ラポートは静態的ではなくて、それは動的なプロセスであり、多様性の体験である。



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