何でもリサイクルできるとは限らない
次のような見出しの新聞記事がある。
『再生』と『熱回収』 地球にやさしいのはどっち?(「産経新聞」1998年4月16日付)
なぜこのような問いが生まれるのであろうか。実は、再生に莫大なエネルギーを使う。ペットボトルは、熱湯、苛性ソーダ、アルカリ洗浄液で計3回の入念な洗浄を行ない、分離機、比重分離機、風力選別機、金属分離機、アルミ分離機を通過させる必要がある。分離・再生過程で、石油・電気を使う。同様なことは牛乳パック、発泡スチロールトレイの「リサイクル」についてもいえる。
「経済性が決める燃料か再生か」(「産経新聞」1998年4月10日付)
リサイクルが成立するためには1)〜6)の条件が必要である。
1)同じものがたくさんあること
2)それらが何らかの有用な属性をもっていること
3)回収ルートがあること
4)再生技術があること
5)再生用品が有用であり需要があること
6)市場競争力があること
現在のリサイクルで一番ネックになっているのが、5)と6)の「経済性」である。再生業者は「リサイクルではもうかりません」と口をそろえて言う。衣類、文房具など、すでに市場が完成している分野に再生品が参入しようとしても、バージン素材より質的に落ち、しかも値段が高い再生品が食い込む余地は少ない。条件が恵まれているペットボトルの再生ペレットでさえ、輸送費などを入れると120円/kgとなり、バージンペレットの100円/kgに負けている。貯蔵するためのストックヤードも必要となり、さらに圧縮機も購入しなければならない。これまで1975年から10億円以上もプラスチックのリサイクル事業に注ぎ込んだ中央化学(株)・渡辺浩二社長でさえ、「成功したものは一つもない。結論から言って、プラスチックは燃やすのが一番だ。エネルギー化がベストだと思っている」と「産経新聞(1998年3月9日付)」の取材に答えている。
「リサイクル」の問題点
「リサイクル」の裏に隠されているもの
発泡スチロールトレイの処理場の新設が相次いでいるが、発泡スチロールトレイからはペットボトルと違って、「二流品」しかできない。せいぜいフラワーポット、鉛筆立て、ゴミ箱、ハンガーである。さらにペットボトル以上に再生処理のためのコストがかかり、中央化学(株)で160円/kg、発泡スチレンシート工業会で250円/kg必要だとしている。しかも再生ペレットは30〜50円/kgほどでしか売れない。
では、なぜ赤字覚悟の「リサイクル」をやるのであろうか。「リサイクル」に熱心な業界を考えてみればすぐに分かる。「リサイクル」の対象は、スチール缶、アルミニウム缶、牛乳パック、発泡スチロールトレイ、ペットボトルと、かつては存在しなかった「使い捨て容器」で、現在の「ゴミ問題」の主役たちである。以前は回収ビンを使用していたものを、企業が缶や紙パック、ペットボトルに変えたのである。導入当時はかなり批判があったが、現在ではこれらの使い捨て容器の使用に多くの人が疑問も抵抗も感じなくなった。その理由は、「この容器はどこかで誰かがリサイクルをしているから」「この容器はリサイクルが盛んになっているから」と、高いリサイクル率が使い捨て容器の大量使用への抵抗感を薄めたのである。企業としては、「リサイクルできるような幻想」をふりまくことで、おおっぴらに製品を販売できているのである。
実際に、ビールは1993年で「ビン:缶:樽=49:41:10」の割合であったが、1994年には逆転し、アサヒビールは「ビールの流れはますます缶へ」というCMコピーさえつくっている。アルミ缶の例で見れば、1985年に6万tだったのが、1994年には24.8万tを生産している。
リサイクルの目的は、資源・エネルギーの浪費を抑えることにあったはずである。しかし、現状は「リサイクルできるからどんどん使ってよい」と「リサイクル」が資源の浪費を容認・助長している。しかも、リサイクル率は、ペットボトルで10.9%、発泡スチロールトレイで7%にすぎない。「リサイクル」が進んでいるものの、容器・包装ゴミは増加し、リサイクル効果は全く見られない。しかも、小型ペットボトルが1996年4月に登場し、紙パックは酒や米までにも使用されるようになり、紙パックの種類と量が増加している。まさに「リサイクル」が「使い捨て容器の大量使用」に免罪符を与えている構図になっている。
現在の「リサイクル」は“recycle”ではない
“cycle”が「循環」であるから、“recycle”は「再循環」となる。しかし、現在行われている「リサイクル」は循環しておらず、ゴミになるのに「ワンクッション」おいているだけである。そのワンクッションのために大量のエネルギーを消費しているにすぎないのである。同じ花を植えるなら、発泡スチロールトレイから再生したフラワーポットより土から作った植木鉢の方が「自然にやさしい」ことは自明である。
真のリサイクルとは、「生態系」の中で完結するものと考えたい。「プラスチック」が問題になるのは自然に帰らないからである。どうすればよいのか。その答えは簡単で、プラスチックではなく、「自然(土)に帰せるもの」を使用すればよいのである。
「リサイクル」運動や分別収集運動は根本的な解決を遅らせている
以上、「リサイクル」の問題点について検討してきた。「ゴミになるより資源になった方がよい」という現在の「リサイクル」は対処療法にすぎない。問題を先送りにしているだけで根本的な解決を遅らせている。残念なことだが、「善意のリサイクル」では地球は救えないのである。
しかも、「環境にやさしい」という宣伝がはばをきかせ、大量生産・大量消費・大量廃棄の構造はそのままになっている。「適量消費」とリサイクルは両輪の輪であり、現在のゴミ問題を解決するには、「廃棄物」の抑制が第一の方法で、リサイクルはあくまでも次善の策なのである。それを勘違いして「リサイクル第一主義」になっているのが、現在の深刻な問題である。
ゴミ問題を解決するためには
ゴミ問題を解決するには、ゴミの分別ではなく、「ゴミになって困るようなものは資源のところで使わせない」という資源の段階での分別が必要である。そのためには、「政治的方法(法的規制)」や「経済的方法」の導入が必要不可欠である。そこで、ここではゴミ問題に関して先進的なドイツと日本の比較を行い、ゴミ問題の解決策を明らかにしたい。
1.生産から廃棄まで責任を負う生産物責任制度−ドイツの例−
ドイツでは、60年前からゴミ回収の有料化を行い、過剰包装を抑える努力をしてきた。現行の「廃棄物の回避および管理に関する法律」は、数々の手直しを重ねて1986年に誕生したものがベースとなっている。この法律は廃棄物を回避することを最重点に挙げ、それが不可能な場合に回収・リサイクルし、それでもだめな場合にだけ焼却や埋め立て処分をするとしている。第1条には「政令にもとづき廃棄物の回避、再使用・再利用を促す」とあるが、マテリアルリサイクル(再利用)よりリユ−ス(再使用)を優先している。第14条には「特定製品については、供給者が廃棄物を回収しうる場合、または製品に回収予約金を設定した場合のみ、流通できる」とある。
廃棄物回避の最初の対象は「容器包装物」で、1991年6月12日「包装物廃棄物回避のための政令」が制定された。包装材は「環境を汚染せず再利用のできる材質を使用した製品」であることを求め、製造者・販売者による「使用済みの容器・包装物の回収」を義務づけ、「ゴミとして廃棄物処理場への持ち込むこと」を禁止したのである。
さらに1996年10月、「廃棄物回避管理法」が改定され、「循環経済廃棄物法(循環経済および環境に調和する廃棄物処分の確保に関する法律)」が施行された。この法律は、廃棄物を広くとらえ、使用済み製品およびそれを生産するときに出る全ての残余物も含めて廃棄物と規定し、生産者にその処理責任があるとするものである。回収と再使用・再生利用が義務づけられているため、リサイクルをしやすい製品の開発が進んでいる。 以上のような廃棄物処理先進国ドイツの取り組みは、EU諸国および各国に波及している。
リサイクル社会にするためには
日本の場合、抜け落ちているのは、「生産者責任制度」である。解決の方法としては、ドイツの法律、とくに「循環経済廃棄物法」が参考になるであろう。
この法律では、企業の生産責任の義務として、経済活動が環境に与える影響を最小にするため、製品の設計・製造段階までさかのぼって、次の1)〜3)の環境配慮をすることが求められている。
1)製品は、その製造と使用の際に廃棄物の発生をできるだけ回避する(Refuse and Reduce)
2)使用後に、再使用や再生利用と処理が保証されるように、設計・製造・販売をしなければな らない(Reuse and Recycle)
3)優先されるのは、個々の場合において環境に負荷を与えない方法であること。再使用や再生 が不可能な場合のみ、環境に調和した方法で安全に処分することができる。
この「循環経済廃棄物法」の視点から、「廃棄物」問題の解決方法を述べてみたいと思う。
1)「ゴミ」になった時に困るようなものは資源のところで使わせない
まず、製品の設計段階で、いかに使用資源や廃棄物を少なくするかということに、企業努力させるべきである。製造工程でも利用可能な廃棄物や二次原料を優先的に使用させるべきである。
また、再資源化困難な製品を販売することによって、それらが廃棄物となってゴミの量を増加させ、処理に障害をもたらしているのが現状である。ゆえに、リサイクルできないような製品は作らせないということが必要となってくる。
しかし、いくら再使用や再生利用ができるとしても、それには限界がある。そこで、廃棄物となった場合に、環境に調和して安全に処分できる、つまり「土にかえることのできる材料」を使用させることが必要である。
現在、「環境ホルモン」「ダイオキシン」で問題になっているのは、ポリ塩化ビニルである。オーストラリア、オランダ、スウェーデンではすでに使用が禁止されている。また使い捨てのプラスチック容器やペットボトルへの課税や禁止措置を行っている国もヨーロッパでは多い。
2)「リユース(再使用)」の推進と「デポジット制」の復活
あからさまに「使い捨て」とみなしうる包装資材や容器を用いた製品を販売して、生活廃棄物を増加させているのが現状である。日本では、リターナブルビンはペットボトルに押されて衰退している。
そこで、長寿命または繰り返し使用可能な製品を開発すること、とくに飲料容器は、ワンウェイビンからリターナブルビンにすることが必要である。ドイツでは、国が目標値(ビールは85%以上、清涼飲料水では70%以上を再使用容器で販売)を設定し、強力に業界を指導している。そのため、ペットボトルは1ボトル20回も繰り返し使える厚手のものを使用している。デンマークでは、リターナブルビンの使用を義務づけ、缶飲料は輸入も禁止し、缶以外でも「デポジットのものまたは自治体の回収計画対象容器以外は輸入しない」と徹底している。しかもペットボトルに対する高いデポジットによってガラスびんにシフトしていく政策も同時にとっている。
ところが日本では、生協が「統一びんリサイクルシステム」事業を行っているのみである。従来38品目が約20種類のびんで売られていたものを統一・整理し、今では55品目を、6種類のびんで製造・販売している。このような取り組みが業界全体に広がることが望まれる。
「リユース」とセットになるのが「デポジット制」である。ワンウェイ容器にもこの制度を採り入れれば、空き缶や紙コップ、ペットボトルのポイ捨てがなくなるだけでなく、独・デンマークのように、メーカーも回収した何度も再使用できる容器を採用するところが多くなるであろう。
3)修理サービスを本格的に行う
修理・再生の体制をつくらずに大量の製品を販売し、不必要にモデルチェンジし、生活廃棄物の量を増大させているのが現状である。
粗大ゴミを捨てる理由は、次のようになっている。(『生活の再構築』より)
1位 修理がきかない(46.6%) 2位 修理代が高い(22.3%)
3位 いいもの販売(4.2%)
故障した場合に、交換する部品がなかったり、部品があったとしても修理すれば新型の製品を買うより高くつくので捨てるという事態が起こっている。また、まだ使えるのにモデルチェンジした新製品を買って、粗大ゴミとして捨てているということも起こっている。
このようなことが起きないようにするためには、不要なモデルチェンジを減らし、なるだけメーカー間で共通の部品を使用し、どのメーカーのものにも間に合う部品を用意して取り替えやすくすることが必要である。
総括−社会システムの構築−
以上のことの実現には、法的に規制したり、経済的手法を用いたりして、企業が取り組むように促すことが必要である。それでは、消費者の態度はどのようにしたら育成できるのであろうか。生協運動では、「環境に負荷の少ない商品」の開発・購入を促している。商品の環境への配慮を様々な角度から採点している「グリーン購入ネットワーク」も存在している。また、官公庁・自治体では、「グリーン調達(購入)」に取り組んでいる。
滋賀県で1994年9月に出された「環境にやさしい物品購入基本指針」によると物品購入に当たっては1)使用段階で環境負荷がより少ないもの、2)使用することによる環境改善効果がより大きいもの、3)使用後の廃棄段階で環境負荷がより少ないもの、4)その他環境保全に寄与することがより大きいものの該当用件のうち、いずれかに当てはまる製品の購入を促している。
このような取り組みが広がることが望まれる。しかし、「環境に負荷の少ない商品」を購入する場合に、問題となるのが、割高になるという点である。「家電リサイクル法」公布にともない、NECは再利用を考えた設計のパソコン「ECOシリーズ」を販売した。ネジを使わずに組み立て、分解しやすく設計し、部品の再利用率も95%にあげたのだが、同型製品より2割高となり、売れ行きは決してよくなかった。「ハイブリッドカー」も同様である。そこで、必要なのが税制による優遇措置である。
このように消費者が「環境に負荷の少ない商品」を購入し、行政が法的規制や経済的手法や税制による優遇を行っていけば、企業も「環境に負荷の少ない商品」を生産するようになる。
メーカーにリサイクルを義務づけ、排出時に消費者に費用を負担させる「家電リサイクル法」が、98年6月に公布され、2001年に施行される。産経新聞の記事(98年9月12日付)によれば、「家電業界がリサイクルに、企業努力のレベルではなく、生存競争をかけ」、組織の見直しも含めた作業にとりかかっているという。松下電器産業は、廃棄物処理業者のサニーメタルと手を組んで廃テレビのリサイクル事業を行い、廃冷蔵庫(98年9月〜)、洗濯機・エアコン(99年〜)でも実証試験を始めている。
これまでは、消費者の態度育成のみに重点が置かれ、行政が後追いをし、企業はその枠外にいた。この三者が一体となった社会システムが構築されなければ、ゴミ問題、環境問題は解決しないであろう。ドイツの「循環経済廃棄物法」のように、消費者が環境に配慮して作られた製品を入手しやすく、企業にとっても、そのような製品が支持されやすい社会システムを法律を通じて具体的に構築することが課題である。一人一人の良心・善意のみに依拠した精神主義から一日も早く脱却することが望まれる。