脂質異常症について

2007年4月に、日本動脈硬化学会は、動脈硬化のリスクとして、従来の総コレステロール(T-Chol)値を
採用せず、その代わりにLDLコレステロール(LDL-Chol)値を採用することにしました。
糖尿病などがない場合は、LDL-Chol値は160mg/dl以下を正常としています。
また、高脂血症の代わりに、脂質異常症(dyslipidemia)を用いることになりました。


1、コレステロールの代謝
コレステロールは、細胞膜やホルモンの重要な構成成分です。中年以降になると
性ホルモンの合成が低下し、また筋肉もやせて来ますので、コレステロールが余ってきます。
従って高コレステロール血症になります。
特に女性の場合は、閉経後に血中コレステロールが増加します。

LDL-Cholは、動脈硬化を促進する最も重要な危険因子です。LDL-Chol値は、下の計算式で求められます。
LDLコレステロール=総コレステロール(TC)−HDLコレステロール−中性脂肪/5

この式から、総コレステロール値が高くても、HDL-Cholが高い場合は、LDL-Cholが高くならないことが分かります。
したがって、総コレステロール値よりも、LDL-Chol値から脂質異常症を治療するかどうかを判断をするのが
妥当と考えられます。


コレステロールの由来

一日量

組織での合成割合

食事から摂取

0.3-0.5g

 

生体内で合成

(内因性コレステロール)

1-1.2g

肝臓で50%合成
腸管で15%
皮膚で35%

上の表から分かるように、食餌からのコレステロール摂取量は20−30%にすぎず、
残りの80%は自分の体内で合成されています。従って、コレステロール値が280mg/dlを越える人は、
食餌制限だけではコレステロールレベルは低下しません。コレステロール合成を抑制する
治療薬が必要とされる所以です。

コレステロールの動態
食餌中の中性脂肪(トリグリセリド)とコレステロールは、腸管で吸収され(2)、中性脂肪を主体とした大きな複合体(カイミクロン)を形成し血中に入る。カイミクロン中の中性脂肪は脂肪組織に蓄積される(3)。脂肪はリパーゼにより遊離脂肪酸に分解され、エネルギーとして利用される。中性脂肪を失った残滓粒子(レムナント)は、肝臓で捕捉され処理される。
一方、内因性コレステロールの合成は、アセチルCoAから、HMGCoA還元酵素により合成される
(1)。内因性コレステロールは、 VLDLとして血中に放出される(4)。VLDLは、脂肪組織で中性脂肪を除去され、コレステロールを主体とするLDL(悪玉コレステロール)になる(5)。血管内皮細胞は、LDL受容体を持ち、コレステロールを取り込む(5)。余剰のコレステロールは、血管内皮に蓄積され、動脈硬化を引き起こす(5)
動脈壁に蓄積されたコレステロールは、HDL(善玉コレステロール)が存在するとHDL粒子に取り込まれ
(6)、肝臓へ回収される(コレステロール逆輸送系と呼ばれる)。

図から分かるように、中性脂肪の多いのは、カイミクロンとVLDLです。
コレステロールの多いのは、LDLとレムナントです。


2、脂質検査値と解説
総コレステロールとLDL値は男女差と年齢差が大きく、下の値は45歳以上の数値です。
項 目 正 常 値
(45才以上)
数値が増減すると 参 考 説 明
総コレステロール
(TC、TC−h)
男:140〜259mg/dl
女:160〜279mg/dl

高値:動脈硬化、
    家族性高脂血症
低値:バセドウ氏病、
    肝障害
減量によりコレステロール値を下げることができる。150md/dl以下の低値では、脳卒中、うつ病や癌のリスクが増える。
HDLコレステロール 男:29〜81mg/dl
女:35〜98mg/dl

低値:動脈硬化
善玉コレステロールとよばれ、血管壁のからコレステロールを運び出す。運動と減量により増やすことができる。
LDLコレステロール 男:72〜180mg/dl
女:82〜180mg/dl

高値:動脈硬化、
    家族性高脂血症
悪玉コレステロールと呼ばれ、動脈硬化促進の最も重要な因子である。多すぎるとコレステロールが血管壁に蓄積し、動脈硬化が進行する。
中性脂肪(TG) 50〜149mg/dl 高値:動脈硬化、
    肥満、脂肪肝
大切なエネルギー源ですが、余ると肝臓や内臓脂肪組織に蓄積される。体重が急に増加するときに高くなる。多過ぎると血液が粘稠になり、つまりやすくなる。
500mg/dlを越えると急性膵臓炎のリスクがあるので注意。

2008年度より、一般健診では、LDLコレステロールが必須項目になりましたので、
総コレステロール値を下記の入力ボックスより求めて下さい。
総コレステロールと LDL/HDL比を計算します。

数字は半角で入力して下さい。
中性脂肪(TG)
LDLコレステロール
HDL-コレステロール [計算]をクリックして下さい。



3、LDLコレステロール値と死亡率



男性は120から159mg/dlまで、女性は120から179mmg/dlまでのLDLコレステロール値で、死亡率が低いことが分かります。


4、中年女性とLDLコレステロールについて

中年女性は、総コレステロールが高値でも、HDL-Chol値も高いことが多いので、LDL-Chol値がそんなに
高くなりません。従来、T-Cholが高く、治療が必要と診断された症例でも、LDL-Cholから見ると正常と判断される
場合がかなりあり、中年女性への無用の投薬を防ぐことができます。
当人間ドックの中年の健診者1,140人について、HDL-Chol値の分布を男女で比較してみました(表1)。
女性の半数が75mg/dl以上あることが分かります。この値で、男性は13%です。
ただし、HDL-Cholの正常値は、40-95mg/mlです。

表1 HDL-Chol値の男女比較
HDL-Chol(mg/dl) >80 >75
女性(%) 28 40
男性(%) 8.2 12.8


一方、中性脂肪(TG)については、表2のように150mg.dl以上を見ると、圧倒的に男性が多い。
これは、アルコール摂取に関係しており、アルコールより中性脂肪が増加するためです。

表2 中性脂肪値の男女比較
中性脂肪(mg/dl) >150
女性(%) 9.3
男性(%) 43


LDL-Cholの計算式は、 LDL-Chol=T-Chol − HDL-Chol − TG/5 で表されます。
一般に、中年女性はHDL-Cholが高く、中年男性は中性脂肪(TG)が高いので、上式から LDL-Cholは
男女差がなくなる可能性がある。実際に調べてみると、表3のように男女差がほとんどありません。
したがって、LDL-Chol値で、中年の脂質異常症を診断するのが妥当であると考えられます。

表3 LDL-Cholの男女比較
LDL-Chol(mg/dl) >190 >180 >170 >160
女性(%) 13.6 22 33 48
男性(%) 12.5 19 31 50


正常中年女性の場合、脂質異常症の治療開始は、LDL-Chol値が190mg/dl以上でよいと考えられます。
しかし、中年男性の場合は複雑です。中性脂肪値が上がるとLDL-Chol値は下がるが、高中性脂肪血症は
内臓脂肪の蓄積や肥満や糖尿病などを引き起こすので、中性脂肪とLDL-Cholとの兼ね合いが問題となります。
男性は、中性脂肪が高いので、LDL-Chol=T-Chol − HDL-Chol − TG/7 が適当との報告があります。
正常中年男性の脂質異常症の治療開始は、LDL-Chol値が180mg/dl以上でよいと考えられる。


5、LDL-Chol/HDL-Chol 比
国内のいくつかの病院からの心筋梗塞患者のLDL-Cholを調べると、120mg/dl以下の人が30%近くいるとのことで、
LDL-Cholが低いだけでは心筋梗塞になりにくいとは言えないことが報告された。
そこでLDL-Chol/HDL-Chol比 (LH比)を調べてみると、2.0以下の患者は心筋梗塞が少なく、2.5以上ではリスクが
高くなることが分かった。また 別の報告で、血管のプラーク(動脈硬化病変)を調べてみると、LH比が2.5を超えると
プラーク形成が進行し、2.0以下では縮小することが明らかにされた。
したがって、動脈硬化の進行を推測するのに、LH比が考慮されるようになっている。
当ドックでも、LDL-Cholは正常範囲であるが、HDL-Cholが低いために、LH比が3.0以上になる人がかなりいます。
HDL-Cholを増加させるのは運動しかありませんので、これらの人には散歩と治療をすすめています。


6、脂質異常症といわれたら

LDL-Chol値を下げる方法は、3つです。
1)コレステロールを多く含む食品(卵黄、イカ、スルメなど)を控える。
2)体重減少によりコレステロールを下げる。
3)運動によりHDL-Cholを増加させる。
食事制限で、LDLコレステロールが180mg/ml以下にならないときは、医師の指導により薬を服用しましょう。



7、メガトライアル(大規模疫学調査)
ヘルシンキ大学から、シンバスタチン(抗コレステロール薬)を10年間投与した約2,000人の
患者について、プラセボ群(約2,000人)との生存率の比較が報告された。
10年間シンバスタチンを投与した群において、心血管疾患の死亡率が17%、冠血管疾患による
死亡率が24%、また発癌率も12%低かった。
(T.E.Strandberg et. al., Lancet, 364, 771, 2004.)

我が国で
1980年から1万人を対象に総コレステロール(TC)値と冠疾患死と全癌死の関係を調べた。
その結果、TC値が240mg/dL以上の群は、TC160mg/dL未満群に比べて冠疾患死が約5倍であった。
逆に、肝癌死は、160mg/dL未満群が、160-199mg/dL群に比べて2.5倍高かった。
260mg/dL以上群の全死亡率は、160-259mg/dLに比べて約1.4倍高いことが分かった。
(Medical Tribune 2005年8月4日号)


(2011/9/6 revised)