辛酸/城山 三郎/角川書店/2001.3.10

 足尾銅山の鉱毒問題に取り組んだ田中正造の話である。代議士の地位も財産もなげて立ち向かった姿に頭が下がる。

 田中正造が亡くなり、その後、運動を受け継いだ宗三郎(そうざぶろう)が正造の短歌を詠む場面がある。その一つに「大雨に打たれたたかれ行く牛を 見よそのわだち 跡かたもなし」というのがある。悲壮な決意だと思う。

本の名前は、正造が求められて色紙に書いた漢詩「辛酸入佳境 楽亦在其中」からのものだ。作者は、「辛酸を神の恩寵と見、それに耐えることによろこびを感じたのか。それとも、佳境は辛酸を重ねた彼岸にこそあるというのか。あるいは、自他ともに破滅に巻きこむことに、破壊を好む人間の底深い欲望の満足があるというのだろうか。」と書く。まわりの支援運動がもう限界にきている頃の話だけに、人間の価値を教えられた。