単元W「経営と法律」のレポートテーマ
他国の憲法と比べての日本国憲法の特徴は、戦争放棄にあると思う。
それは、一つには先の第二次世界大戦の敗戦によって生まれたという、日 本国憲法の成立の経過によるものである。 日本国民が310万人、アジアの諸国で2,000万人の犠牲者を出し、
世界最初の被爆国となった日本は、戦後の出発にあたり、戦争放棄の憲法 を制定し、維持している。同じ、敗戦国のドイツが、1950年代に憲法 を改正して正式な軍隊をもち、NATO軍に加盟したこと、さらに199
4年にはドイツ連邦憲法裁判所がドイツ軍がNATOの域外に派兵して も違憲ではないという判決が出ていることと比べて、日本国憲法が改憲さ れずに戦争放棄を保っていることの意義は大きい。
戦争放棄の背景の二つめは、制定当時の世界の情勢をみることである。
日本国憲法は、日本政府が望んだものではなかった。連合国軍総司令部 が当時の幣原内閣に指令し、憲法草案づくりが開始され、1946年2月 8日に「憲法改正要綱(松本私案)」が司令部に出されたが、天皇条項が
ほとんど変わっていなかったので司令部が拒否。2月13日に「占領軍総 司令部草案」を日本政府に示し、この草案を受けて、日本政府は「憲法改 正草案要綱」を3月6日に発表した。これが、現在の日本国憲法である。
明治憲法の改正を日本政府は望まなかったが、日本国民の大多数は新し い憲法を歓迎した。「毎日新聞」が1946年の5月27日に世論調査を 実施したが、結果、「象徴天皇制」の賛成は85%、戦争放棄に賛成は7
0%だった。国民は新しい憲法の成立過程は詳しく知らされていなかった が出来上がったものには、国民の大部分が賛成しているのは注目したい。
そして、この連合国の憲法草案に人類の自由へのたたかいの歴史が刻まれ
ている。決して、戦後突然に与えられたものではなく、1789年8月2 6日のフランス人権宣言を節目とした基本的人権思想が1948年12 月10日に国連第三回総会で採択された世界人権宣言につながる流れの
なかで、日本国憲法は位置づけられるものだ。 特に日本国憲法の前文の第二段落の末尾にある「平和のうちに生存する 権利」は世界の憲法のなかで初めて表現され、その原理は、1978年1
2月15日の第三三回国連総会で「平和に生きる社会の準備に関する宣 言」として採択された。このように日本国憲法は、世界の憲法史のなかで、 金字塔ともいえる位置にあるのではないだろうか。
日本国憲法の特徴である戦争放棄を中心に日本国憲法の今日的意義
を述べたい。 実際には、憲法に謳われている戦争放棄はないがしろにされていると思 う。戦後のアメリカの対日支配の戦略変更と自民党政権によって、自衛隊 がつくられ、巨大化してきたが、まさに現代の科学技術の進歩の前には、
たとえ自衛のために戦力を備えるといえども新鋭化・重装備にならざるを 得ないことを示している。また、それが日米安全保障条約によってアメリ カの世界戦略に組み込まれ、軍需産業の餌食にされているなかで憲法の戦
争放棄の理念は後方に追いやられている。 しかし、私たちは、人類を数回絶滅できる核兵器をもつに至った。日本 国憲法の理念にそった戦争放棄の道が、人類の危機を回避する唯一の選択
ではないだろうか。
日本国憲法の第九条には「国際紛争を解決する手段と
しては、永久にこれ(国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力 の行使)を放棄する。」と述べられている。そして、それはなぜそうする のかといえば、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの
安全と生存を保持しようと決意した。」(日本国憲法の前文)からである。 「国際貢献への妨げである」とか、「国際的孤立を招く」ということで 憲法第九条をなくそうとする動きには、この憲法前文の理念の歴史性と科
学の発達により武力が防衛手段として役に立たず逆に他国の信頼をそこ なう役割を果たしていることを認識すべきである。
1996年11月3日付毎日新聞に、先の総選挙で当選した衆院議員全
員を対象に憲法意識に関するアンケート(毎日新聞社実施)の結果が掲載 された。憲法公布五〇年の企画である。それをみると、憲法の果たしてき た役割として「戦争の放棄」を挙げる議員が半数を越えたが、改憲に「賛
成」が41%を占め、「反対」の34%を上回った。改憲賛成の背景とし て、国連平和維持活動(PKO)への参加や日米安保再定義など、国際政 治環境の変化に伴う日本の役割の変質が要因として挙げられるという。こ
こで問題なのは、「日本の役割の変質」の内容である。アメリカの世界戦 略を「国際政治環境」といい直してはいないか。私は疑問に感じ恐れを抱 く。
平和を求める国々は、憲法第九条に注目している。私たちは憲法の解釈
をゆがめず、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に 除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたい」(憲 法前文)し、私たちの表現の自由を平和のために行使したい。
参考文献:「普通の国」を超える憲法と「普通の国」すら断念する改憲(樋口陽一 かもがわ出版)
憲法九条は国際政治に無力か (弓削 達 かもがわ出版)
憲法は押しつけられたか (加藤周一 かもがわ出版)
毎日新聞 (1996年11月3日付)