マランツ7k プリアンプ
Marantz 7k Pre Amplifier

オリジナル(#7)や現行レプリカ(#7SE等)に比べ安価な7kだが、内部構造は同一
(使用部品は異なる)


1.マランツ#7の変遷

(1)略歴
・1959年、マランツ#7発売
・1965年、製造中止
・196?年、マランツ7T(Tr式)発売
・1979年、25周年記念としてマランツ#7のレプリカ、7k(キット)を発売
・199?年、再びレプリカの#7(完成品)を発売
・1997年、リミテッドバージョンの#7SEを発売
(2)マランツ7kについて
1979年、マランツは創業25年記念の一環として、名機の誉高い#7・#9をキットでほぼ完全に復刻、発売しました。(翌80年には、#8Bをキットにした 8Bkも発売)
当時既に#7は伝説の名機と化しており (当時で発売後約20年経過) 、一般のオーディオマニアが気軽に購入して使える代物ではありませんでした。そこへ「自分の手で名機の仕組みを確認しながら、新品が手に入る」ということで、この7kの販売は好評で、かなり高い価格設定 (定価20万円、参考までにLUXKIT A-3032管球プリアンプキットは当時定価88,000円) にも係わらず無事完売したようです。
ちなみに、MJライターの森川氏は13ページにも渡った詳細記事を執筆し、その文面からも御本人の興奮具合が伺えるほどです。

しかしながら、発売当時の人気とは裏腹に、その後の中古市場では、7kは#7にはまるで敵わないとの見方が一般的となりました。理由は、
 ・キットのため、完成品の出来・不出来の差が著しい。
 ・中古の完成品では、自分で組んで構造確認できるというキットならではのメリットが失われている。
 ・使用パーツの一部(C・R・ロータリーSW他)が、#7に対し大きく変更されている。
 ・発売後から年月が経ち、#7と7kの構造がほぼ同一ということを知らない人が増えてきた。
といったところでしょうか。

一方で、現時点での(#7に対する)7kの利点としては
 ・#7より新しい分、劣化を心配しないで済む。(とはいっても、7k自体もビンテージの範疇に入りつつあるが)
 ・オリジナルに拘らずに思う存分改造出来る。
 ・価格が圧倒的に安い。(半額以下?)
が挙げられます。

(3)#7(R)、#7SE
その後1990年代後半、空前の真空管アンプブームで#7の市場価格も上昇傾向。名門マランツは7k発売以来約20年ぶりに、再度の名機復刻、発売を企画しました。
今回の製品は#7、#8B、#9の完成品で、一般には#7レプリカ、#7Rなどと呼ばれています。
前回の7k発売のときと比較すると、使用部品のグレードも上がりオリジナルにもひけを取らないほどになりましたが、一方反響は今一つで、元々限定品だったはずのこれらの製品に、更に特別仕様と称したSEバージョン(#7SE)を設定して、最終出荷分はこの名称で出荷されています。

#7Rと#7SEには実質的な差は殆どないことと、#7オリジナルや7kとの区別がしやすい事から、本文内では#7レプリカとSEをひっくるめて#7(R)と呼称することにします。

 

2.#7・7k・#7(R)の相違点

主にMJ誌の森川氏執筆の特集記事を基にまとめています。私が所有しているのは7kだけですので、他の機種については裏付けが取れていません。
  #7 7k #7R
発売年 1958年 1979年 199?年
販売形態 完成品 組立キット 完成品
使用真空管 TELEFUNKEN
ECC83
GE 12AX7 (注)TELEFUNKENであった可能性もあり GD 12AX7A
(marantzブランド)
カップコン Sprague
BlackBeauty
PLESSEY
フィルムコン
EFC
フィルムコン
ケミコン Sprague Sprague Mallory
抵抗 A&Bソリッド 国産ソリッド A&Bソリッド
メインVR Clarostat
コスモス他
アルプス Clarostat
セレクタSW CRL アルプス CRL
ACアウトレット ALDEN-NA-ALO SMK ALDEN-NA-ALO?
ヒューズホルダ Little Fuse SMK Little Fuse?
パワーSW 米国製 国産 松下

7kで特記すべき相違点

(1)Rの変更
#7ではA&Bソリッド抵抗を使用しているのに対し、7kでは国産ソリッド抵抗を使用しています。
A&Bソリッドは各種抵抗の中でも比較的優秀な部類に属するのに対し、国産ソリッドは低コスト低品質の代表のような抵抗です。
大抵の方はこれによる音質面の違いを気にされますが、個人的にはむしろ信頼性の面で国産ソリッド採用には不安を感じます。
(2)Cの変更
#7ではSPRAGUEのBLACKBEAUTYを使用している箇所に、7kではPLESSEYのフィルムコンを採用しています。
ここも音質面ではよく話題となる箇所ですが、経年変化で絶縁低下したBLACKBEAUTYよりは遥かに信頼性があるといえます。
(3)真空管の変更
#7ではテレフンケンECC83だったのが、7kではGEの12AX7Aに変更されています。
森川氏の測定結果では、テレフンケン球を使用すると残留ノイズが入力換算で-120dBをクリアーするのに対し、付属のGE球では-110dBまでしか下がらなかったとのこと。
(ちなみに同じく森川氏の測定では、#7(R)のGD球では-100dBとか・・・)
氏ひとりの実験結果では正直、事例数としては少なすぎるのですが、真空管全盛期の頃から既に「テレフンケン球はローノイズ(※)」との定評があったので、ここは全面的に信頼することにいたします。
 
真空管全盛期にテレフンケンやシーメンスのECC83がもてはやされていたのは、あくまで「ローノイズ」であったからで、「音が良い」等と言われ始めたのはごく最近のことです。
(4)VRの変更
#7ではCLAROSTAT(後期型はコスモス)製に対し、7kでは国産(バイオレット)の物が付いています。
(5)セレクタスイッチの変更
#7では米国CRL製のかなり大型の特注品が付いているのに対し、7kではアルプス特注の小型の物が付いています。
(6)ACアウトレット、ヒューズホルダ、パワースイッチ
何れも#7では米国製の物に対し、7kでは国産(SMK等)に変更されており、形状が若干変わっています。
(7)リアパネル記載事項
「#7」の記載が「7k」に、所在地もN.Y.→カリフォルニアに、シリアルNo.も7kでは頭に「F・・・」が付いて区別されます。
(8)テープEQ回路の配線違い
これも森川氏の指摘ですが、#7ではテープEQ回路付近の配線が本来の回路図と異なっているとのことです。
これに対し7kは、マニュアルどおりに組み立てると回路図どおりの配線となります。

 

3.#7を意識した7kの部品交換・組立方法

簡単に言えば、上記2.の全てを#7相当に変更すれば、ほぼ満足のいく#7レプリカ機となるはずです。
但し、オリジナルのロータリースイッチは入手困難ですし(注)、リアパネルのメーカー所在地の記載などは音質とは全く関係ない箇所なので、この2点まで改造してある7kはまず存在しないと思いますが・・・。
#7SE用のロータリースイッチは補修部品で入手可能かも知れません。7kの物よりはオリジナルに近いとのことです。

 

4.石塚氏の#7コンデンサ交換に関する記述

ラジオ技術1986年9月号にて、石塚峻氏がコメント内で
 
  スプラグのブラックビューティーは安物で信頼性に乏しい。(同感!)
  #8、#9に採用されているTRW(GoodAll)のコンデンサを#7にも採用する予定だったのが、コスト面からブラックビューティーに変更になった。
  TRWはその後ASCに引き継がれ、#7のブラックビューティーはこのASCのフィルムコンに交換するのがベストである。
 
との主張をされています。
事の真偽はさておき、ASCのフィルムコンがかなり高信頼品であることは複数の証言からほぼ間違いないようです。
安価なコンデンサではないですが、オーディオ用としてはまあ普通の価格で、ブラックビューティーよりは遥かに安価です。
コンデンサの交換を考えている方は、候補の1つとして如何でしょうか?

 

5.7k実機の状態

現在、手元に2台の7k完成品があります。
同じ7kながら、使用部品や電気的な状態が全く違います。
もしも7kを購入予定の方がいらっしゃいましたら、ご参照下さい。
最初に入手した方をNo.1、他方をNo.2としています。
(1)外観等
No.1はメインVRに若干のガタがある。これはVRをバイオレット→A&Bに交換しているため(後述)。
 
高級品といわれているが・・・ガタもガリもあるA&B
No.1はリアパネルのピンジャックのアース側接触面にハンダが付着している。これは、ピンジャックとリアパネル間のアースが接触不良となったのを修理したためと思われる(後述)。

 
パネル面にもハンダがはみ出している(中央のジャック)
内側から見ると一目瞭然(向かって右上のジャック左側
No.1はウッドケース内側の梁に鋲の頭が出ており(不良)、このため底板に大きなキズがある。 


かなり大きなキズだが、
ケースから出さないと分からない

(2)使用部品変更の有無

 

No.1内部(左)とNo.2内部(右)の写真。

No.1はRをA&Bに、Cをブラックビューティー・ビタミンQ等に変更している。
 
大型のブラックビューティー(左)と、小型のPLESSEY(右)
現時点での信頼性は、恐らくPLESSEYの方が上

No.1はVRをA&Bに変更している。
但し、#7でも本来はVRにはA&Bは採用しておらず、またこのA&BのVRはガタが大きくガリも発生するので、後にコスモスの物に再変更した。
No.1はヒューズホルダをリトルヒューズ社製の物に変更している。
 
リトルヒューズ社製(左)とSMK製(右)
ちなみに、No.2ではいずれの部品も7kのオリジナルを使用。
(3)真空管
No.1は、テレフンケン・マラードのECC83を使用。No.2もテレフンケンのECC83を使用。
但し上記は購入時に挿さっていた球で、誰がどの時点で交換したかは不明。また私の手許に来てからは、米国高信頼管か国産管に交換済み。
(4)セレクタ付近の配線等の状態
No.1は、異なるソースの入力端子間のクロストークが大きく、2入力に別の信号を入れながら片側を選択しての使用には堪えない程。No.2は全く問題なし。
No.2は、ピンジャックのアース全てを導線で接続している。No.1はオリジナルのままで、アースの接続はリアパネルとの接触のみに頼っている。
 
ピンジャックのアースを繋げる銅線は非純正仕様
恐らく、このピンジャックのグランドの浮き(対リアパネル)は#7系全機種の欠点と思われます。
ピンジャックのグランド側の接続は、アルミ製のリアパネル表面との接触のみに頼り、オマケにその接触力はリベットに因るものですから、ジャックをちょっとこじってしばらく放置しておけばたちまち接触不良になるのは明らかです。
更に、ジャックのグランド同士は直接結線しておらず、全てこのリアパネルを介していて、そのあちこちのジャックに別々の回路のグランドを接続していますから、ボリュームやセレクタがまともに効かなくなったりするのも当然です。
(5)まとめ

No.1は、#7をかなり調査して組み立てた意欲作と思われるが、現在の電気的な動作状態はさほど良くない。その原因の大半(全て)は、ピンジャックグランド側の接触不良に起因している。
No.2は、7kとしてのオリジナルにほぼ忠実な作りで動作状態も良好。国産ソリッド抵抗やプラッシーのフィルムコンをそのまま使用しているが、動作の安定感はNo.1の比ではない。
7kだけでなく、#7購入時でも入力端子間のクロストークには気をつけたほうが良いです。
これが悪い物はグランドが浮いている可能性が大で、使用感も悪いし、音質にも悪影響を与えていること間違いありません。
「#7は(入力端子間の)音の漏れがあって当たり前」と開き直っている専門店もあるくらいです。ご注意ください。

 

6.現在の#7、7k、#7R(レプリカ)の流通状況(2001年現在)

(1)#7
#7は、お金に糸目をつけなければ5台や10台位はいとも簡単に見つけろことが可能。価格は程度により、25万〜60万円の物が大半で、ごく一部のレア機(初期ロットや極上品)は100万近い場合もあり。
(2)7k
7kは、組立済中古品のみ入手可能で、未組立品の入手は非常に困難。
最近(2000年当時)、1台だけ未組立品が25万円で売りに出されていたが、たちまちの内に問い合わせが殺到して売り切れとなった。
中古では、15万〜25万円の値付けが多い(2000年現在。25万以上になると#7との逆転が生じるため)。
本体よりもむしろマニュアルの方が希少かも知れないが、これは地道に探せば入手不可ではない。
(3)#7R
数は減っているものの、最終バージョンの#7SE(スペシャルエディション)は箱入新品もまだ入手可能(2000年当時。さすがに2002年現在は入手が難しくなってきた)。メーカーの思惑以上に売れ残りがあったと思われる。
中古は、25万〜35万円の物が殆どだが、数はさほど多くない。また、新品時の定価が高めだったため、20万円台の中古の売れ行きは良い。

 

7.#7に関する文献紹介

全部の文献を取り込んでアップロードしておければ良いのですが、著作権の関係で難しいので、タイトルのみ記しておきます。国会図書館、大学図書館等で閲覧してみて下さい。

(1)無線と実験’79年3月号
森川氏の7k製作記(全13ページ)。#7との相違点を明らかにしながら、#7を意識した組立法を記載。他にキットを開梱した状態の写真(見開き2ページ)、回路図(折込2ページ)あり。
(2)無線と実験’79年4月号
森川氏の#7・7k・#9・9kの試聴記。
(3)ラジオ技術’79年7月号
浅野勇氏の7k解説記事。
(4)ラジオ技術’86年9月号
石塚氏の#7使用部品に関する考察。ブラックビューティーは妥協の末採用されたものであり、本来はTRW(現ASC)のGoodALLを使用すべきというのが主旨。
(5)無線と実験’85年5月号
カラーページにて#7他管球プリの内部写真を公開。
(6)管球王国 No.9
新製品紹介にて、#7SE・#9SEの特集(2ページ)。
(7)無線と実験’97年9月号
森川氏による#7と#7SEの比較記事(7ページ)。回路図あり。
(8)管球王国 No..12
#7・#8・#8B・#9の解説と評論家の対談、感想(7ページ)。回路図あり。
(9)マランツ7kマニュアル
忘れちゃいけません。オリジナル#7所有のかたも頑張って入手して下さい。(全72ページ)

 


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