服部土芳
こゑに皆鳴しまふみや蝉のから
宝永六年(一七〇九) 五十三歳の作である
句意
 いま盛んに蝉が鳴きたて耳を聾するばかりであるが、ふと見ると蝉のからが一つ木の幹にくっついている。命の限りをつくして鳴き枯らしてしまったのであろうか、もぬけの殻である。思えば人の世も同じではないだろうか。
 土芳の「庵日記」に「宝永六年巳丑年 西蓮寺に詣で翁の蝉の句に無常迅速と題の有かけ物を見る。山寺の所から更にかなしき」との前詞がある。そして芭蕉の句「やがて死ぬけしきは見へず蝉の聲」のあとに、「其響菩提寺の山にみちて 人おのつからなみあみだゝ こゑに皆鳴しまふみや蝉のから」とつづいている。
上野市長田 西蓮寺
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