びいと啼く尻声悲し夜の鹿
元禄七年(一六九四)五十一歳の作である
句意
静かな秋の夜更け、闇の彼方で牝を呼ぶ牡鹿の、ビイーと末を長く引いて鳴
く声がいかにも悲しげで、あわれ深いことだ。
「笈日記」に「その夜はすぐれて月も明らかに、鹿も声々に乱れてあはれな
れば、月の三更(午前零時ごろ)なる頃、かの池(猿沢池)のほとりに吟行す」
との前詞がある。
古来、交尾期の鹿の声の悲しさを詠んだ詩歌は多いが、肉声を擬音で捉えた点
に俳諧としての新しさと強みがある。
奈良市春日野町 春日大社
MENU MENU9