芭蕉翁 奈良句集 

 

(奈良句碑になっている句は棒線を追記)

 

 

  寛文七年 二十四歳(伊賀―奈良訪問)

 

うかりける人や初瀬の山桜       (桜井市初瀬付近)

 

糸桜こや帰るさの足もつれ       (桜井市初瀬付近?)

 

風吹けば尾細うなるや犬桜       (桜井市初瀬付近?)

 

  寛文十年 二十七歳(伊賀―奈良訪問)

 

うち山や外様しらずの花盛り      (天理市杣之内、永久寺)

 

五月雨も瀬踏み尋ねぬ見馴河      (奈良付近?)

 

  寛文十一年 二十八歳(伊賀―奈良訪問)

 

女夫鹿毛に毛が揃うつかし    (奈良付近?)

 

  貞享一年  四十一歳(伊賀―奈良、吉野訪問)

 

綿弓や琵琶になぐさむ竹の奥      (当麻町竹之内)

 

僧朝顔幾死に返る法の松        (当麻町、当麻寺(禅林寺))

 

冬知らぬ宿や籾摺る音霰        (当麻町長尾の里)

 

碪打ちて我に聞かせよ坊が妻      (吉野山の宿坊)

 

露とくとく試みに浮世すすがばや      (吉野、西行堂)

 

御廟年経て忍は何を忍草         (吉野、如意輪寺塔尾陵)

 

木の葉散る桜は軽し檜木笠        (吉野付近)

 

貞享二年  四十二歳(伊賀―奈良訪問)

 

春なれや名もなき山の薄霞       (伊賀〜奈良への田舎道)

 

水取りや氷の僧の沓の音        (奈良、東大寺)

 

初春まづ酒に梅売る匂ひかな      (当麻町竹之内)

 

世に匂へ梅花一枝のみそさざい     (当麻町竹之内、一枝軒)

 

  元禄一年 四十五歳(伊賀―奈良、吉野訪問)

 

春の夜や籠り人ゆかし堂の隅      (桜井市初瀬付近)

 

雲雀より空にやすらふ峠哉       (桜井〜吉野の途中 細峠)

 

龍門の花や上戸の土産にせん         (吉野郡龍門嶽にある滝)

 

酒飲みに語らんかかる滝の花      (吉野郡龍門嶽にある滝)

 

花の陰謡に似たる旅寝哉        (吉野郡平尾の里)

 

扇にて酒くむ陰や散る桜         (吉野付近)

 

声よく謡はうものを桜散る      (吉野付近)

 

ほろほろと山吹散るか滝の音       (吉野川上流の吉野大滝)

 

桜狩り奇特や日々に五里六里      (吉野付近)

 

日は花に暮れてさびしやあすなろう   (吉野付近)

 

春雨の木下につたふ清水哉       (吉野の奥、西行庵旧蹟付近)

 

凍て解けて筆に汲み干す清水哉     (吉野の奥、西行庵旧蹟付近)

 

花盛り山は日ごろの朝ぼらけ(吉野付近)

 

なほ見たし花に明け行く神の顔     (葛城山脈の主峰、葛城山付近)

 

一つ脱いで後に負ひぬ衣更       (奈良付近)

 

灌仏の日に生れあふ鹿の子哉      (奈良付近)

 

若葉して御目の雫ぬぐはばや      (奈良、唐招提寺)

 

鹿の角まづ一節の別れかな       (奈良付近)

 

草臥れて宿借るころや藤の花      (橿原市八木付近)

 

里人は稲に歌詠む都かな        (奈良付近)

 

楽しさや青田に涼む水の音       (奈良、当麻町竹之内付近)

 

  元禄二年 四十六歳(伊賀―奈良訪問)

 

初雪やいつ大仏の柱立         (奈良付近)

 

元禄七年 五十一歳(伊賀―奈良訪問)

 

びいと啼く尻声悲し夜の鹿       (奈良付近)

 

菊の香や奈良には古き仏達       (奈良付近、重陽の節句)

 

菊の香や奈良は幾代の男ぶり      (奈良付近、重陽の節句)

 

菊の香にくらがり登る節句かな     (奈良〜大阪途中、暗峠)

 

貞享〜元禄年間

 

奈良七重七堂伽藍八重ざくら           (奈良付近)

 

(奈良での作品ではないが、奈良句碑になっている名句を抜粋)

 

鶯を魂にねむるか嬌柳         (天和三年 四十歳)

 

馬ぼくぼくわれを絵に見る夏野哉    (天和三年 四十歳)

 

蓑虫の音を聞きに来よ草の庵      (貞享四年 四十四歳)

 

吉野にて桜見せうぞ檜木笠         (元禄一年 四十五歳)

 

蛤のふたみに別れ行く秋ぞ        (元禄二年 四十六歳)

 

夏草や兵どもが夢の跡          (元禄二年 四十六歳)

 

今日ばかり人も年寄れ初時雨      (元禄五年 四十九歳)

 

春もやや気色ととのふ月と梅      (元禄六年 五十歳)

 

梅が香にのつと日の出る山路哉     (元禄七年 五十一歳

 

世に盛る花にも念仏申しけり      (貞享〜元禄年間)

 

春の夜は桜に明けてしまひけり     (貞享〜元禄年間)

 

飯貝や雨に泊りて田螺きく       (年次不詳)

 

小くら山梅はむかしの匂ひかな     (年次不詳)

 

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