露とくとく試みに浮世すすがばや
貞享一年(一六八四)四十一歳の作である
句意
岩間からとくとくと滴り落ちるこの清冽な雫で、試みに浮世の汚れを濯いで
みたいものだ。
「西行上人の草の庵の跡は奥の院より右の方、二町ばかり分け入るほど、柴
人の通ふ道のみわずかにありて、険しき谷を隔てたる、いと尊し。かのとくと
くの清水は昔に変らずと見えて、今もとくとくと雫落ちける」との前詞がある。
「とくとくの清水」は西行の歌と伝える「とくとくと落つる岩間の苔清水汲み
干すほどなき住まひかな」から出た名である。
西行への思慕が深く感じられる作句で、あわいユーモアも漂っている。