行く春を近江の人と惜しみける
元禄三年(一六九〇)四十七歳の作である
句意
春光うららかに打ち霞む琵琶湖の湖上に、去りゆこうとする春の情緒がたゆ
とうている。この春を、自分はこの近江の国の人々とともに、心ゆくばかりに
惜しんだことだ。
おだやかな湖上の、いかにも琵琶湖らしい暮春の情緒を浮かび上がらせてい
る。
「近江の人」は近江を郷土とし湖水を愛する人情こまやかな人々であり、その
人々と湖上に暮れゆく春を惜しむところに格別の情感をこめた作である
「行く春や近江の人と惜しみける」ともある(真蹟懐紙)。