芭蕉翁 滋賀句集 

芭蕉翁 滋賀句集 

 

(滋賀句碑になっている句は棒線を追記)

 

延宝三年 三十二歳(各地漂泊―伊賀帰郷時)

 

盃の下ゆく菊や朽木盆         (高島郡朽木村付近?)

 

貞享二年 四十二歳(伊賀帰郷―京都―大津)

 

山路来て何やらゆかし菫草       (大津〜京都間の山道)

 

辛崎の松は花より朧にて        (大津 唐崎付近)

 

躑躅生けてその陰に干鱈割く女     (大津〜京都間の街道筋)

 

菜畠に花見顔なる雀哉         (大津〜京都間の街道筋)

 

命二つの中にいきたる桜かな      (甲賀郡水口町付近)

 

元禄一年 四十五歳(伊賀帰郷―各地漂泊―大津)

 

五月雨に隠れぬものや瀬田の橋     (大津 瀬田の唐橋)

 

この蛍田毎の月にくらべみん      (大津 瀬田川蛍谷)

 

目に残る吉野を瀬田の蛍哉       (大津 瀬田川蛍谷)

 

草の葉を落つるより飛ぶ蛍哉      (大津 瀬田川蛍谷)

 

世の夏や湖水に浮む浪の上       (大津 井狩昨ト亭)

 

海は晴れて比叡降り残す五月哉     (大津 琵琶湖水楼)

 

夕顔や秋はいろいろの瓢哉       (大津 琵琶湖付近)

 

鼓子花の短夜眠る昼間哉        (大津 奇香亭)

 

昼顔に昼寝せうもの床の山         (大津〜岐阜間の街道筋)

 

秋やまにあら山伏の祈るこゑ       (伊賀〜大津間の街道筋?)

 

 元禄二年 四十六歳(伊賀帰郷―大津)

 

少将の尼の話や志賀の雪        (大津 智月尼庵)

 

これや世の煤に染まらぬ古合子     (大津 膳所付近)

 

霰せば網代の氷魚を煮て出さん     (大津 義仲寺内草庵)

 

何にこの師走の市に行く烏       (大津 膳所歳末の市)

 

元禄三年 四十七歳(伊賀帰郷―大津)

 

薦を着て誰人います花の春       (大津 膳所付近)

 

獺の祭見て来よ瀬田の奥        (大津 膳所付近)

 

蛇食ふと聞けばおそろし雉子の声    (伊賀〜大津間の街道筋?)

 

草枕まことの華見しても来よ      (大津 膳所付近)

 

四方より花吹き入れて鳰の波      (大津 膳所洒落堂)

 

行く春を近江の人と惜しみける     (大津 唐崎付近)

 

独り尼藁屋すげなし白躑躅       (大津 琵琶湖付近)

 

曙はまだ紫にほととぎす        (大津 石山寺)

 

まづ頼む椎の木もあり夏木立      (大津 幻住庵)

 

君や蝶我や荘子が夢心         (大津 幻住庵)

 

夏草に富貴を飾れ蛇の衣        (大津 幻住庵)

 

夏草や我先達ちて蛇狩らん       (大津 幻住庵)

 

夕にも朝にもつかず瓜の花       (大津 幻住庵)

 

日の道や葵傾く五月雨         (大津 琵琶湖付近)

 

橘やいつの野中の郭公         (大津 琵琶湖付近)

 

蛍見や船頭酔うておぼつかな      (大津 瀬田川蛍谷)

 

己が火を木々に蛍や花の宿       (大津 瀬田付近)

 

わが宿は蚊の小さきを馳走かな     (大津 幻住庵)

 

やがて死ぬけしきは見えず蝉の声    (大津 幻住庵)

 

合歓の木の葉越しも厭へ星の影     (大津 幻住庵)

 

玉祭り今日も焼場の煙哉        (大津 義仲寺内草庵)

 

猪もともに吹かるる野分かな      (大津 幻住庵)

 

こちら向け我もさびしき秋の暮れ    (大津 幻住庵)

 

白髪抜く枕の下やきりぎりす      (大津 義仲寺内草庵)

 

月見する座に美しき顔もなし      (大津 義仲寺内草庵)

 

月代や膝に手を置く宵の宿       (大津 膳所正秀亭)

 

桐の木に鶉鳴くなる塀の内       (大津 膳所付近)

 

稲妻に悟らぬ人の貴さよ        (大津 義仲寺内草庵)

 

草の戸を知れや穂蓼に唐辛子      (大津 義仲寺内草庵)

 

病雁の夜寒に落ちて旅寝哉       (大津 堅田付近)

 

海士の屋は小海老にまじるいとど哉   (大津 堅田付近)

 

朝茶飲む僧静かなり菊の花       (大津 堅田祥瑞寺)

 

蝶も来て酢を吸ふ菊の膾哉       (大津 堅田付近)

 

雁聞きに京の秋に赴かん        (大津 義仲寺内草庵)

 

石山の石にたばしる霰かな       (大津 石山寺)

 

ひごろ憎き烏も雪の朝哉        (大津 義仲寺内草庵)

 

三尺の山も嵐の木の葉哉        (大津付近)

 

比良三上雪さしわたせ鷺の橋      (大津 比良山付近)

 

たふとさや雪降らぬ日も蓑と笠     (大津 比良山付近)

 

かくれけり師走の海のかいつぶり    (大津 琵琶湖)

 

人に家を買はせて我は年忘れ      (大津 乙州の新宅)

 

元禄四年 四十八歳(伊賀帰郷―京都―大津)

 

大津絵の筆のはじめは何仏       (大津付近)

 

木曾の情雪や生えぬく春の草      (大津 義仲寺内草庵)

 

梅若菜丸子の宿のとろろ汁       (大津 乙州の新宅)

 

初秋や畳みながらの蚊帳の夜着     (大津 膳所付近)

 

秋海棠西瓜の色に咲きにけり      (大津 膳所曲水亭)

 

牛部屋に蚊の声暗き残暑哉       (大津 膳所付近)

 

秋の色糠味噌壷もかりけり      (大津 義仲寺内草庵)

 

淋しさや釘に掛けたるきりぎりす    (大津 義仲寺内草庵)

 

くるる友を今宵の月の客       (大津 義仲寺内草庵)

 

三井寺の門敲かばや今日の月      (大津 義仲寺内草庵)

 

鎖明けて月さし入れよ浮御堂      (大津 堅田付近湖上)

 

安々と出でていざよふ月の雲      (大津 堅田付近湖上)

 

十六夜や海老煎るほどの宵の闇     (大津 堅田付近)

 

祖父親孫の栄えや柿蜜柑        (大津 堅田可休亭)

 

名月はふたつ過ぎても瀬田の月     (大津 瀬田川舟上)

 

稲雀茶の木畠や逃げ処         (大津 義仲寺付近)

 

鷹の目も今や暮れぬと鳴く鶉      (大津 義仲寺付近)

 

蕎麦も見てけなりがらせよ野良の萩   (大津 義仲寺付近)

 

折々は酢になる菊の肴かな       (大津 義仲寺付近)

 

草の戸や日暮れてくれし菊の酒     (大津 義仲寺内草庵)

 

橋桁の忍は月の名残り哉        (大津 瀬田の大橋)

 

たび起きても月の七つ哉       (大津 義仲寺内草庵)

 

松茸や知らぬ木の葉のへばり付く    (大津 義仲寺付近?)

 

煮麺の下焚きたつる夜寒哉       (大津 膳所曲水亭)

 

秋風や桐に動きて蔦の霜        (彦根付近?)

 

稲こきの姥もめでたし菊の花      (彦根付近)

 

百歳の気色を庭の落葉哉        (彦根 光明遍照寺)

 

尊がる涙や染めて散る紅葉       (彦根 光明遍照寺)

 

元禄七年 五十一歳(伊賀帰郷―大津)

 

夏の夜や崩れて明けし冷し物      (大津 膳所曲水亭)

 

ふぐ嬶が馳走や夕涼み       (大津 膳所曲水亭)

 

皿鉢もほのかに闇の宵涼み       (大津 膳所曲水亭)

 

秋近き心の寄るや四畳半         (大津 木節亭)

 

さざ波や風の薫の相拍子        (大津 膳所游刀亭)

 

湖や暑さを惜しむ雲の峰        (大津 膳所游刀亭)

 

ひらひらと挙ぐる扇や雲の峰      (大津 本間主馬亭)

 

蓮の香を目にかよはすや面の鼻     (大津 本間主馬亭)

 

稲妻や顔のところが薄の穂       (大津 本間主馬亭)

 

ひやひやと壁をふまえて昼寝哉     (大津 木節亭)

 

ほそし相撲取り草の花の露      (大津 義仲寺内草庵)

 

貞享〜元禄年間(年次不詳)

 

この宿は水鶏も知らぬ扉かな      (大津 湖仙亭)

 

 

(滋賀での作品ではないが、滋賀句碑になっている名句を抜粋)

 

道の辺の木槿は馬に喰はれけり     (貞享一年 四十一歳)

 

いかめしき音や霰の檜木笠       (貞享一年 四十一歳)

 

樫の木の花にかまはぬ姿かな      (貞享二年 四十二歳)

 

古池や蛙飛びこむ水の音        (貞享三年 四十三歳)

 

観音の甍見やりつ花の雲        (貞享三年 四十三歳)

 

五月雨に鳰の浮巣を見にゆかむ     (貞享四年 四十四歳)

 

叡慮にて賑ふ民や庭竃         (元禄一年 四十五歳)

 

父母のしきりに恋し雉子の声      (元禄一年 四十五歳)

 

ほろほろと山吹散るか瀧の音      (元禄一年 四十五歳)

 

夏草や兵どもが夢の跡         (元禄二年 四十六歳)

 

田一枚植ゑて立ち去る柳かな      (元禄二年 四十六歳)

 

月さびよ明智が妻の咄せん       (元禄二年 四十六歳)

 

そのままに月もたのまじ伊吹山     (元禄二年 四十六歳)

 

鶯の笠落としたる椿かな        (元禄三年 四十七歳)

 

木のもとに汁も膾も桜かな       (元禄三年 四十七歳)

 

葱白く洗ひあげたる寒さかな      (元禄四年 四十八歳)

 

折々に伊吹を見ては冬籠り       (元禄四年 四十八歳)

 

三日月の地は朧なり蕎麦の花      (元禄五年 四十九歳)

 

うらやまし浮世の北の山桜       (元禄五年 四十九歳)

 

人も見ぬ春や鏡の裏の梅        (元禄五年 四十九歳)

 

今日ばかり人も年寄れ初時雨      (元禄五年 四十九歳)

 

一声の江に横たふやほととぎす     (元禄六年 五十歳)

 

蒟蒻の刺身もすこし梅の花       (元禄六年 五十歳)

 

蓬莱に聞かばや伊勢の初便り      (元禄七年 五十一歳)

 

潅仏や皺手合する数珠の音       (元禄七年 五十一歳)

 

梅が香にのっと日の出る山路哉     (元禄七年 五十一歳)

 

鶯や柳のうしろ藪の前         (元禄七年 五十一歳)

 

八九間空で雨降る柳かな        (元禄七年 五十一歳)

 

紫陽花や藪を小庭の別座敷       (元禄七年 五十一歳)

 

木隠れて茶摘みも聞くやほととぎす   (元禄七年 五十一歳)

 

旅に病んで夢は枯野をかけ廻る     (元禄七年 五十一歳)

 

榎の実散る椋の羽音や朝嵐        (貞享〜元禄年間)

 

西行の庵もあらん花の庭         (貞享〜元禄年間)

 

蝶鳥の浮つき立つや花の雲        (貞享〜元禄年間)

 

松風の落葉か水の音涼し         (貞享〜元禄年間)

 

物いへば唇寒し秋の風          (貞享〜元禄年間)

 

はがれたる身にはきぬたのひびき哉    (元禄年間)

 

へそむらのまだ麦青し春のくれ      (年次不詳)

 

野洲川や身は安からぬさらしうす     (年次不詳)

 

頭巾召せ寒むや伊吹の山おろし      (年次不詳)

 

めい講やあぶらのような酒五升      (年次不詳)

 

もろもろの心柳にまかすべし       (年次不詳)

 

 

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