芭蕉翁 京都句集 

 

(京都句碑になっている句は棒線を追記)

 

 

  貞享二年 四十二歳(伊賀―京都訪問、大津へ)

 

梅白し昨日や鶴を盗まれし       (京都 鳴滝付近)

 

樫の木の花にかまはぬ姿かな      (京都 鳴滝付近)

 

わが衣に伏見の桃の雫せよ       (京都 伏見西岸寺)

 

元禄一年 四十五歳(須磨―京都訪問、大津へ)

 

有難き姿拝まんかきつばた       (京都付近)

 

花あやめ一夜に枯れし求馬哉      (京都付近)

 

  元禄二年 四十六歳(伊賀―京都訪問)

 

山城へ井出の駕籠借る時雨哉      (京都 山城付近)

 

元禄三年 四十七歳(伊賀―京都訪問)

 

京にても京なつかしやほととぎす    (京都 四条付近)

 

川風や薄柿着たる夕涼み        (京都 四条付近)

 

我に似るふたつに割れし真桑瓜    (京都付近)

 

こちら向け我もさびしき秋の暮     (京都付近)

 

季候の来れば風雅も師走哉      (京都付近)

 

千鳥立ち更け行く初夜の日枝颪     (京都付近)

 

住みつかぬ旅の心や置火燵       (京都付近)

 

煤掃は杉の木の間の嵐哉        (京都付近)

 

半日は神を友にや年忘れ        (京都 鞍馬示右亭)

 

乾鮭も空也の痩も寒の中        (京都 四条付近)

 

納豆切る音しばし待て鉢叩き      (京都 四条付近)

 

元禄四年 四十八歳(伊賀―京都訪問、大津へ)

 

山吹や宇治の焙炉の匂ふ時       (京都 宇治付近)

 

闇の夜や巣をまどはして鳴く鴴     (京都付近)

 

憂き節や竹の子となる人の果      (京都 嵯峨野付近)

 

嵐山藪の茂りや風の筋         (京都 嵐山付近)

 

柚の花や昔忍ばん料理の間       (京都 落柿舎)

 

ほととぎす大竹藪を漏る月夜      (京都 落柿舎付近)

 

憂き我をさびしがらせよ閑古鳥     (京都 落柿舎付近)

 

手を打てば木魂に明くる夏の月     (京都 落柿舎付近)

 

竹の子や稚き時の絵のすさび      (京都 落柿舎)

 

一日一日麦からみて啼く雲雀     (京都 落柿舎付近)

 

能なしの眠たし我を行々子       (京都 落柿舎)

 

五月雨や色紙へぎたる壁の跡      (京都 落柿舎)

 

粽結ふ片手にはさむ額髪        (京都 詩仙堂付近)

 

風薫る羽織は襟もつくはず      (京都 詩仙堂付近)

 

水無月は腹病やみの暑さかな      (京都付近?)

 

初秋や畳みながらの蚊屋の夜着     (京都付近?)

 

秋海堂西瓜の色に咲きにけり      (京都付近?)

 

秋風の吹けども青し栗の毬       (京都付近?)

 

荻の穂や頭をつかむ羅生門       (京都 羅生門付近)

 

牛部屋に蚊の声暗き残暑哉       (京都 付近)

 

元禄七年 五十一歳(膳所―京都訪問)

 

柳行李片荷は涼し初真桑        (京都 落柿舎)

 

涼しさを絵にうつしけり嵯峨の竹    (京都 嵯峨野明亭)

 

清滝の水汲ませてやところてん     (京都 清滝付近)

 

六月や峰に雲置く嵐山         (京都 嵐山付近)

 

清滝や波に散り込む青松葉       (京都 清滝付近)

 

夕顔に干瓢むいて遊びけり       (京都付近)

 

朝露によごれて涼し瓜の上       (京都付近)

 

瓜の皮剥いたところや蓮台野      (京都付近)

 

松杉をほめて風のかをる音      (京都 嵯峨常寂光寺)

 

七夕や秋を定むる夜のはじめ      (京都 野童亭)

 

貞享〜元禄年間

 

柴の戸の月やそのまま阿弥陀坊     (京都 東山付近)

 

(京都での作品ではないが、京都句碑になっている名句を抜粋)

 

春立つや新年ふるき米五升       (貞享一年 四十一歳)

 

古池や蛙飛びこむ水の音        (貞享三年 四十三歳)

 

名月や池をめぐりて夜もすがら     (貞享三年 四十三歳)

 

いざさらば雪見にころぶ所まで     (貞享四年 四十四歳)

 

おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉    (貞享五年 四十五歳)

 

何にこの師走の市にゆく烏       (元禄二年 四十六歳)

 

今日ばかり人も年寄れ初時雨      (元禄五年 四十九歳)

 

春もやや気色ととのふ月と梅      (元禄六年 五十歳)

 

一声の江によこたふやほととぎす    (元禄六年 五十歳)

 

梅が香にのつと日の出る山路哉     (元禄七年 五十一歳

 

木隠れて茶摘みも聞くやほととぎす   (貞享〜元禄年間)

 

花の山二町のぼれば大悲閣       (年次不詳)

 

畄守といふ小僧なふらん山桜      (年次不詳)