芭蕉翁 岐阜句集
(岐阜句碑になっている句は棒線を追記)
貞享一年 四十歳(近江―美濃路―大垣)
義朝の心に似たり秋の風 (関が原
常盤御前の墓前)
秋風や藪も畠も不破の関 (関が原 不破の関屋跡)
苔埋む蔦のうつつの念仏哉 (大垣 源朝長の墓前)
死にもせぬ旅寝の果てよ秋の暮 (大垣 谷木因別亭)
琵琶行の夜や三味線の音霰 (大垣 近藤如行亭)
元禄一年 四十五歳(大津―美濃路―岐阜)
無き人の小袖も今や土用干 (矢橋木因亭?)
宿りせん藜の杖になる日まで (妙照寺住職己百亭)
山陰や身を養はん瓜畑 (金華山周辺)
もろき人にたとへん花も夏野哉 (金華山周辺)
撞鐘もひびくやうなり蝉の声 (金華山の山麓)
城跡や古井の清水まづ訪はん (金華山頂の岐阜城址)
又やたぐい長良の川の鮎膾 (長良川畔)
おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉 (長良川畔)
このあたり目に見ゆるものは皆涼し (長良川畔
十八楼)
夏来てもただひとつ葉の一葉かな (金華山の山道)
送られつ別れつ果ては木曾の秋 (各務原 鵜沼坂井邸?)
草いろいろおのおの花の手柄かな (各務原 鵜沼坂井邸?)
朝顔は酒盛知らぬ盛りかな (各務原 鵜沼坂井邸?)
ひよろひよろとなほ露けしや女郎花 (各務原 鵜沼坂井邸?)
元禄二年 四十六歳(奥の細道―美濃路―大垣)
鳩の声身に入みわたる岩戸哉 (大垣
赤坂明星輪寺)
そのままよ月もたのまじ伊吹山 (大垣 赤坂明星輪寺)
籠り居て木の実草の実拾はばや (大垣 戸田如水別邸)
早く咲け九日も近し菊の花 (大垣 浅井左柳亭)
藤の実は俳諧にせん花の跡 (大垣 浅井左柳亭?)
隠れ家や月と菊とに田三反 (大垣 谷木因別亭)
西行の草鞋もかかれ松の露 (大垣 谷木因別亭)
蛤のふたみに別れ行く秋ぞ (大垣 船町湊)
元禄四年 四十八歳(膳所―美濃路―大垣)
作りなす庭をいさむる時雨かな (垂井
本龍寺規外亭)
葱白く洗ひあげたる寒さかな (垂井 本龍寺規外亭)
折々に伊吹を見ては冬籠り (大垣 岡田千川亭)
凩に匂ひやつけし返り花 (大垣 耕雪子別邸)
(岐阜での作品ではないが、岐阜句碑になっている名句を抜粋)
藻にすだく白魚やとらば消えぬべき (天和一年 三十八歳)
花にうき世我が酒白く飯黒し (天和三年 四十歳)
野ざらしを心に風のしむ身哉 (貞享一年 四十一歳)
道の辺の木槿は馬に喰はれけり (貞享一年 四十一歳)
馬をさへ眺むる雪の朝哉 (貞享一年 四十一歳)
市人よこの笠売らう雪の笠 (貞享一年 四十一歳)
春なれや名もなき山の薄霞 (貞享一年 四十一歳)
山路来て何やらゆかし菫草 (貞享二年 四十二歳)
菜畠に花見顔なる雀哉 (貞享二年 四十二歳)
蝶の飛ぶばかり野中の日影哉 (貞享二年 四十二歳)
観音のいらか見やりつ花の雲 (貞享三年 四十三歳)
古池や蛙飛びこむ水の音 (貞享三年 四十三歳)
酒飲めばいとど寝られぬ夜の雪 (貞享三年 四十三歳)
永き日も囀り足らぬひばり哉 (貞享四年 四十四歳)
原中やものにもつかず啼く雲雀 (貞享四年 四十四歳)
蓑虫の音を聞きに来よ草の庵 (貞享四年 四十四歳)
旅人と我が名呼ばれん初時雨 (貞享四年 四十四歳)
いざさらば雪見にころぶ所まで (貞享四年 四十四歳)
旧里や臍の緒に泣く年の暮 (貞享四年 四十四歳)
結ぶより早歯にひびく砧哉 (貞享年間)
何の木の花とは知らず匂ひ哉 (元禄一年 四十五歳)
この山の悲しさ告げよ野老掘り (元禄一年 四十五歳)
ほろほろと山吹散るか滝の音 (元禄一年 四十五歳)
草臥れて宿借るころや藤の花 (元禄一年 四十五歳)
花盛り山は日ごろの朝ぼらけ (元禄一年 四十五歳)
父母のしきりに恋し雉の声 (元禄一年 四十五歳)
閑かさや岩にしみ入る蝉の声 (元禄二年 四十六歳)
行く春や鳥啼き魚の目は涙 (元禄二年 四十六歳)
あらたふと青葉若葉の日の光 (元禄二年 四十六歳)
田一枚植ゑて立ち去る柳かな (元禄二年 四十六歳)
世の人の見付けぬ花や軒の栗 (元禄二年 四十六歳)
笠島はいづこ五月のぬかり道 (元禄二年 四十六歳)
夏草や兵どもが夢の跡 (元禄二年 四十六歳)
蚤虱馬の尿する枕もと (元禄二年 四十六歳)
涼しさを我が宿にしてねまるなり (元禄二年 四十六歳)
五月雨をあつめて早し最上川 (元禄二年 四十六歳)
有難や雪を薫らす南谷 (元禄二年 四十六歳)
暑き日を海に入れたり最上川 (元禄二年 四十六歳)
荒海や佐渡に横たふ天の河 (元禄二年 四十六歳)
一家に遊女も寝たり萩と月 (元禄二年 四十六歳)
早稲の香や分け入る右は有磯海 (元禄二年 四十六歳)
あかあかと日は難面くも秋の風 (元禄二年 四十六歳)
しをらしき名や小松吹く萩薄 (元禄二年 四十六歳)
石山の石より白し秋の風 (元禄二年 四十六歳)
庭履いて出でばや寺に散る柳 (元禄二年 四十六歳)
あさむつや月見の旅の明け離れ (元禄二年 四十六歳)
名月や北国日和定めなき (元禄二年 四十六歳)
寂しさや須磨に勝ちたる浜の秋 (元禄二年 四十六歳)
薦を着て誰人います花の春 (元禄三年 四十七歳)
木のもとに汁も膾も桜かな (元禄三年 四十七歳)
稲妻に悟らぬ人の貴さよ (元禄三年 四十七歳)
山里は万歳遅し梅の花 (元禄四年 四十八歳)
三井寺の門敲かばや今日の月 (元禄四年 四十八歳)
今日斗り人も年よれ初時雨 (元禄五年 四十九歳)
ほととぎす声横たふや水の上 (元禄六年 五十歳)
梅が香にのつと日の出る山路哉 (元禄七年 五十一歳)
鶯や柳のうしろ藪の前 (元禄七年 五十一歳)
松杉をほめてや風のかをる音 (元禄七年 五十一歳)
物いへば唇寒し秋の風 (貞享〜元禄年間)
降らずとも竹植うる日は蓑と笠 (貞享〜元禄年間)
ふくしるも喰へは喰せよきくの酒 (年次不詳)
汲溜の水泡たつや蝉の声 (年次不詳)
来てみれば獅子に牡丹の住居哉 (年次不詳)
柳小柳片荷はすずし初真瓜 (年次不詳)
地にもいり雲にものるや薬堀 (年次不詳)
春風やきせるくはへて船頭殿 (年次不詳)
時雨ふれ笠松へ著日なりけり (年次不詳)
正月も美濃と近江や閏月 (年次不詳)
水相似たり三つまたの夏 (連句)
その葉を笠に折らむ夕顔 (連句)
萩にねようか荻にねようか (連句)