芭蕉翁 三重句集 (伊賀句集を除く)

 

(三重句碑になっている句は棒線を追記―伊賀句碑は別句集)

 

 貞享一年 四十一歳(各地漂泊―北勢〜伊勢訪問)

 

晦日月なし千歳の杉を抱く嵐      (伊勢外宮参拝)

 

芋洗ふ女西行ならば歌よまむ      (伊勢内宮神路山の南の谷)

 

蘭の香や蝶の翅に薫物す         (伊勢の茶店)

 

蔦植ゑて竹四五本の嵐哉        (伊勢の盧牧の家)

 

いかめしき音や霰の檜木笠       (大垣より多度神社へ行く道)

 

宮守よわが名を散らせ木葉川      (多度神社)

 

冬牡丹千鳥よ雪のほととぎす      (桑名本統寺)

 

明ぼのや白魚しろきこと一寸      (桑名の東郊浜の地蔵堂)

 

雪薄し白魚しろきこと一寸       (桑名の東郊浜の地蔵堂)

 

遊び来ぬ鰒釣りかねて七里まで     (桑名より熱田へ)

 

貞享四年 四十四歳(各地漂泊―伊勢訪問)

 

歩行ならば杖突き坂を落馬哉     (四日市采女〜鈴鹿石薬師への坂)

 

 元禄一年 四十五歳(各地漂泊―伊勢訪問)

 

何の木の花とは知らず匂ひ哉      (伊勢外宮参拝)

 

御子良子の一本ゆかし梅の花      (伊勢外宮参拝)

 

暖簾の奥ものふかし北の梅       (伊勢の医師斯波一有の家))

 

梅の木になほ宿り木や梅の花      (伊勢外宮高級神官の家)

 

物の名をまづ問ふ蘆の若葉哉      (伊勢外宮の神官の家)

 

芋植ゑて門は葎の若葉哉         (伊勢外宮の神官の家)

 

この山のかなしさ告げよ野老掘     (朝熊山の菩提山神宮寺)

 

盃に泥な落しそ群燕           (朝熊山の西麓 楠部)

 

紙衣の濡るとも折らん雨の花      (伊勢外宮高級神官の家)

 

神垣や思ひもかけず涅槃像       (伊勢外宮の神官の屋敷町)

 

裸にはまだ衣更着の嵐哉        (伊勢内宮の神路山)

 

皆拝め二見の七五三を年の暮      (二見浦)

 

 元禄二年 四十六歳(各地漂泊―北勢〜伊勢訪問)

 

うたがふな潮の花も浦の春       (二見浦)

 

憂き我をさびしがらせよ秋の寺     (長島町大智院)

 

月さびよ明智が妻の咄しせん      (伊勢 下級御師の家)

 

たふとさにみなおしあひぬ御遷宮    (伊勢外宮参拝)

 

秋の風伊勢の墓原なほすごし      (伊勢市荒木田守武の墓所)

 

硯かと拾ふやくぼき石の露       (二見浦)

 

門に入れば蘇鉄に蘭の匂ひ哉      (伊勢市浦口町の守栄院)

 

(三重での作品ではないが、三重句碑になっている名句を抜粋)

 

道の辺の木槿は馬に喰はれけり     (貞享一年 四十一歳)

 

春なれや名もなき山の春霞       (貞享二年 四十二歳)

 

ほつしんの初にこゆる鈴鹿山      (貞享二年 四十二歳)

 

鷹ひとつ見付けてうれしいらご崎    (貞享四年 四十四歳)

 

永き日を囀り足らぬ雲雀かな      (貞享四年 四十四歳)

 

藪椿門は葎の若葉哉          (元禄一年 四十五歳)

 

ほととぎす消え行く方や島ひとつ    (元禄一年 四十五歳)

 

文月や六日も常の夜には似す      (元禄二年 四十六歳)

 

眉掃を面影にして紅粉の花       (元禄二年 四十六歳)

 

雁ゆくかたや白子若松        (元禄三年 四十七歳)

 

橙や伊勢の白子の店ざらし       (元禄三年 四十七歳)

 

闇の夜や巣をまとはして鳴く千鳥    (元禄四年 四十八歳)

 

今日斗り人も年よれ初時雨       (元禄五年 四十九歳)

 

三日月の地はおほろなる雪見草     (元禄五年 四十九歳)

 

白露をこぼさぬ萩のうねりかな     (元禄六年 五十歳)

 

春もややけしきととのふ月と梅     (元禄六年 五十歳)

 

蓬莱に聞かばや伊勢の初たより     (元禄七年 五十一歳)

 

梅が香にのっと日の出る山路かな    (元禄七年 五十一歳)

 

たわみてはゆきまつ竹のけしきかな   (元禄七年 五十一歳)

 

青柳の泥にしだるる汐干かな      (元禄七年 五十一歳)

 

月の夜の何を阿古木に啼く千鳥     (年次不詳)

 

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